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ねこ
ねこ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 11」 講談社
1977(昭和52)年9月10日
初出「愛育」1937(昭和12)年1月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2016-05-11 / 2016-03-04
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 黒ねこは、家の人たちが、遠方へ引っ越していくときに、捨てていってしまったので、その日から寝るところもなければ、また、朝晩食べ物をもらうこともできませんでした。しかたなく、昼間はあちらのごみ箱をあさり、こちらのお勝手口をのぞき、夜になると、知らぬ家のひさしの下や、物置小舎のようなところにうずくまって、眠ったのであります。
 こうなると、いままでかわいがってくれた人々までが、
「そら、どらねこがきた。」といって、顔を出すと水をかけたり、いたずらっ子は、そばを通ると、小石を拾って投げたりしました。もとは、きれいな毛色であったのが、このごろは、どこへでも入るので汚れて、まことにみすぼらしい姿となってしまいました。
 それに、黒ねこは、おいていかれたときには、もうお腹に子供があったのです。きっと、情けを知らぬ主人は、「子供を産むとやっかいだから、捨てていこうよ。」といって、後に残したのでありましょう。
 かわいそうなねこは、どこで、自分の子供たちを産んだらいいかと迷いました。そして、毎日、方々を見て歩きましたが、ここなら安全と思うようなところはなかなか見つかりませんでした。人間にも油断ができなければ、犬や、また、ほかのねこたちにも、けっして心を許せなかったからです。
 こうして、ほどなく母ねこになろうとする黒ねこは、自分の食べ物を探すことよりも、かわいい子供を産む安全な場所を見いだすことにいっしょうけんめいでありました。
 とうとう、人家からはなれた森の中に、よさそうなところを見つけました。そして、そこへ子供を産む用意をいたしました。やがて、三びきのかわいらしい、黒と白のぶちねこが産まれました。それからというもの、母ねこの心配は、いままでのようなものではなかったのです。自分たちの隠れ場所に、雨や、風が、吹き込んでも子ねこには当てないようにして、子ねこは、いつもあたたかな母ねこのお腹の下で、安らかに眠っていました。
 日数がたつと、三びきの子ねこは、母ねこのお腹の下からはい出して、こおろぎや、かえるなどを追いかけたのであります。
 母ねこは、じっと子ねこたちの遊ぶようすを見守っていました。もし、子ねこたちが、あまり自分から遠ざかろうとすると、
「ニャアオ、ニャアオ。」といって、呼び止めました。
「あまり遠くへいってはいけない。お母さんが、許すまでは、そんなに遠くへいくことはなりません。」と、さもいいきかせるように見られたのであります。
 ところが、ある日、母ねこが、外へ出かけて食べ物をさがして、森へもどってくると、留守の間に二ひきの子ねこは、どこへいったか姿が見えませんでした。犬に食われてしまったか、人につれられていったか、それともみぞの中へ落ちてしまったか、母ねこが、声をからしてあたりをたずねましたけれど、ついに行方がわかりませんでした。二ひきの子供を失った母ねこの…

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