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ねことおしるこ
ねことおしるこ
作品ID52100
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 10」 講談社
1977(昭和52)年8月10日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者仙酔ゑびす
公開 / 更新2012-01-29 / 2014-09-16
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

「お姉ちゃん、お姉ちゃん、たいへん。」と、まくらをならべている正ちゃんが、夜中にお姉さんを起こしました。よく眠入っていたお姉さんは、何事かと思って、おどろいて目をさまして、
「どうしたの、正ちゃん。」と、いまにも立ち上がろうとなさいました。
「あれ、たいへんじゃないか。」と、正ちゃんは、大きな目をあけて、耳をすましていました。
「なにさ、なにがたいへんなの。」
「アオン、アオンといっているだろう。あれは、黒いどらねこだよ。そして、ニャア、ニャアといっているのは、三毛なんだよ。」
 正ちゃんは、ねこのけんかで目をさましたのでした。小さい三毛が、大きな黒ねこにいじめられているので、たいへんだと思ったのです。
「ねこのけんかでしょう。そんなことで、人を起こすものがありますか、びっくりするじゃありませんか。」と、お姉さんは、正ちゃんをしかりました。正ちゃんは、お床の中で、しばらく黒ねこと三毛ねこのけんかをきいていましたが、我慢がしきれなくなって、
「しっ!」と、どなりました。
 そのうちに、ねこのなき声がしなくなりました。
「わるいどらねこだな。こんど見つけたら、石を投げてやるから。」
 そういって、正ちゃんは、眠りましたが、お姉さんは、なかなか眠れませんでした。明くる日の朝、みんなが、テーブルの前にすわったとき、
「あんなことで、起こすものじゃなくてよ。」と、正ちゃんは、お姉さんにしかられました。ところが、その日の午後でありました。お姉さんが、学校から帰ってくると、往来で遊んでいた正ちゃんが、遠くから、見つけてかけてきて、
「お姉さん!」と、呼びました。これを見た、お姉さんは、思わずにっこりなさいました。正ちゃんは、やっと、お姉さんに近づくと、
「お姉ちゃん、おしるこがあるよ。だけど、たった、一杯!」と、大きな声で、いいました。歩いている人が、これをきいて、笑ってゆきました。お姉ねえさんも、きまりが悪くなりました。お家へ帰ると、お姉さんは、
「なぜ、あんなみっともないことをいうの、人が笑ってゆくじゃありませんか。」といって、正ちゃんをしかりました。
「ほんとうだから、いいだろう。僕、おしるこたべたいな。」と、正ちゃんは、いいました。
「いいえ、もう、あんたはいけません。」と、お母さんがおっしゃいました。
 正ちゃんは、外へ遊びにゆきました。それから、だいぶ時間がたちました。そのうちに、日が陰って、風が寒くなりました。
「さっき、正ちゃんは、セーターをぬいだのよ。寒くなったから、呼んできて、着せておやり、かぜをひくといけない。」
 こう、お母さんが、おっしゃったので、お姉さんは、正ちゃんをさがしにゆきました。しかし、どこにも、その姿が、見つかりませんでした。
「いませんのよ。」と、お姉さんは、帰ってきました。
「赤土の原っぱにも。」
「ええ、原っぱにも、お宮の境内に…

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