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もずとすぎの木
もずとすぎのき
作品ID52115
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 11」 講談社
1977(昭和52)年9月10日
初出「台湾日日新報」1937(昭和12)年4月16日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2017-12-25 / 2017-11-24
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 若い元気なもずが、風の中をすずめを追いかけてきました。すずめは、死にもの狂いに飛んで、すいと黒くしげったかしの木の中へ下りると、もずはついにその姿を見失ってしまったので、そばの高いすぎの木の頂に下りて止まりました。
「ああ、ばかな骨おり損をしてしまった。」といって、いまいましそうに、もずは、くちばしを木の枝でふいていました。
 これを聞いたすぎの木は、
「いいことをなさいましたよ。」といいました。もずは、目を光らして、
「私は仕損じてがっかりしているのに、なんでいいことをしたというのですか?」と、すぎの木に向かって、たずねたのです。
「あのすずめの母親は、病気なんですよ。そしてあの子すずめは、感心な親思いで、きっと母に食べさせる餌をさがしに出かけたのでしょう。あのすずめが、あなたに捕まったら、病気の母すずめは、悲しくて死んでしまうにちがいありません。」と、すぎの木は、答えたのでした。
 これをきくと、もずは、はじめて、そんな感心な子すずめであったのかと思いました。
「そうですか、それは、いいことをした。もうすこしで私のつめは、あの子すずめの体にさわったのだ。いまごろどんなに驚いていることだろう。まだ、私が、ねらっていると思うだろうから、私は、そんなことを忘れてしまったと知らせるために、唄をうたってやりましょう。」
 若い、元気なもずは、すぎの木の頂で、風に吹かれながら、青空に向かって、高い、そして鋭い声で、おもしろそうな唄をうたったのであります。その声は、遠くまでひびいたのでした。
「ごらんなさい。いままで、方々にきこえていた小鳥たちの声が、あなたの声をきくとぴったりと止まって、静かになったじゃありませんか、みんなあなたを怖れているのです。」と、すぎの木は、いいました。
 このとき、木の下の方で、人の声がしました。もずが見ると、かきの木があって、赤い実がたくさんなっていました。そのそばに、一軒のわら家があって、六つばかりの女の子が、
「あの鳥は、なんという鳥なの?」といって、おじいさんに、きいていました。おじいさんは、眼鏡をかけて、日の当たる縁側でご本を見ていられましたが、
「あれは、もずという小鳥だよ。あの鳥は、秋になると、飛んできて、高い木に止まって鳴くのだよ。」と、おっしゃいました。
 女の子は、じっと木の頂を見ていましたが、
「私は、あの鳥が大好きよ。また来年も、あの木へきて鳴くといいわね。」といって、ながめていました。
 もずは、これまで自分をいやな鳥だとか、乱暴な鳥だとか、いううわさをきいていましたが、いま、このかわいらしい女の子に、好きといわれたので、たいそう機嫌をよくしました。
「すぎの木さん、ここの景色はすばらしいじゃありませんか? 私は、きっとまた来年もやってきますよ。」といいました。
「もずさん、来年といえば、長い間ですが、諸国を飛び…

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