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和紙十年
わしじゅうねん
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本の名随筆68 紙」 作品社
1988(昭和63)年6月25日
入力者門田裕志
校正者noriko saito
公開 / 更新2012-01-06 / 2014-09-16
長さの目安約 21 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



 之は思出の記である。物語はこの本に差挟んだ幾つかの和紙に関してである。選んだものは何も諸国の紙々に行き渡つてゐるのではない。又之で昔の紙の歴史を語らうとするのでもない。たまたまゆかりあつてこの十年の間、私が与つてきた紙を想ひ起すためなのである。だから新しく生み得たものが主である。その多くには私の友達の敬ふべき技が加へられた。さうして是等のものは、先づ私が用ゐたいものであり又現に多くは用ゐられてきたものなのである。何れにも忘れ難い思い出がまとうから、こゝに皆集めて、いつでもお互に逢へるようにしたかつたのである。
 もとよりこゝに掲げた凡ての紙が全く新しい創作なわけではない。どんな新しい試みも伝統を無視しては出来ない。吾々の為すべきこと、為し得ることは、古い伝統を新しい製作に活かすことである。こゝに納めたものゝ多くは、その意図のもとに作られて来たのである。私は是等のものを美しいと思ふ。少くとも和紙をいや美しくしようとする努力の跡は示されてゐよう。たとへ昔のものに劣るとも、いつかは優るための用意であると云へないであらうか。その或ものは既に新しい一歩を踏み出してゐると考へられる。私は是等のものによつて、直接仕事に携つてくれた多くの友達の功績を紀念したいのである。
 之に添へて私は歴史に名のある幾つかの紙や、又地方が産んだ名もない生紙を選んだ。是等のものは私の予々の敬念のしるしともなるであらう。



 和紙との濃い縁は、私に出した版本から始まる。最初に上梓したのは「朝鮮の美術」と題した本で、大正十一年のことであるから、もう二十年余りも前のことになる。続いて同年「陶磁器の美」を出し、「思ひ出」を出した。紙は何れも信州のものを用ゐた。朝鮮の紙には既に早くから親しむ折があつたが、今は和紙のことを語るのであるからそれを省こう。
 和紙に一段と近づくやうになつたのは昭和六年のころであつた。民芸の調査に雲石の二州を訪ねた時、太田直行氏から二人の人を紹介された。一人は中村和氏で製紙の技師であつた。一人は安部栄四郎君で岩坂村の業者であつた。その時幾種かの試作品を示され、私の意見を求められた。その縁がそも/\抄紙の仕事に私が進んで携はる発端を成した。その折私の希望を燃やしたのは雁皮紙であつた。薄葉のものは誰でも知りぬいてゐる。併し古書の料紙であつたあの厚手のものを、この地で再び甦らすことの出来たのは、何たる幸なことであつたか。世にも気高いこの雁皮紙に、私は私の熱情を注いだ。巻頭に貼附した実物の一と二とはかくして拵らへられたものゝ一例である。私はそれを二三の私版本に用ゐた。この世で味ひ得る感謝すべき贅沢の一つであつた。安部君は若かつたが仕事に誠意があつた。さうして私を信じ私の依頼する多くの紙を勤勉に作つてくれた。出来がよかつたのは私の私版本の一つである「茶道を想ふ」に用ゐた料…

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