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赤い土の壺
あかいつちのつぼ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「日本怪談大全 第一巻 女怪の館」 国書刊行会
1995(平成7)年7月10日
入力者川山隆
校正者門田裕志
公開 / 更新2012-04-29 / 2014-09-16
長さの目安約 14 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 永禄四年の夏のことであった。夕陽の落ちたばかりの長良川の磧へ四人伴の鵜飼が出て来たが、そのうちの二人は二羽ずつの鵜を左右の手端にとまらし、後の二人のうちの一人は艪を肩にして、それに徳利や椀などを入れた魚籃を掛け、一人は莚包を右の小脇に抱え、左の小脇に焼明の束を抱えていた。皆同じように襤褸襦袢を一枚着て腰簔をつけていたが、どこか体のこなしにきりっとしたところがあって、ぬらくらした土地の漁師のようでなかった。
 そこは長良川の西岸で、東岸には稲葉山が黄昏の暗い影を曳いてそそり立っていたが、その頂の城櫓の白壁には、夕陽の光がちらちらと動いていた。長良川の水はそのあたりで東岸に迫って流れ、西岸には広びろとした磧を見せていた。四人の鵜飼のうちで鵜を持ったほうの一人は、四十前後の痩せぎすな男で、一人は三十五六の角顔の体のがっしりした男であった。そして、莚包と焼明を持っているのは、三十前後の背の高い鋭い眼をした男で、艪を持っているのは、五十前後の背のずんぐりした白髪の目だつ男であった。四人は昼の暑さのために葉を巻いていた川柳がだらりと葉を延ばして、ひと呼吸つこうとでもしているように思われる処を通って、下手の方へ往った。暑い陽を吸うていた磧の沙は鬼魅悪くほかほかしていた。その時莚包と焼明を持って背の高い男が、鵜を持った角顔の男のほうを見て、
「鮎を獲りたいものじゃが」
 と云った。すると角顔の男は前岸の樹木の茂みの方をちらと見て、
「獲れるとも、この鵜さえうまく使えば」
 と、云って顔で笑った。その拍子に右の手にとまった鵜が飛びたつように羽ばたきをした。莚包と焼明を持った背の高い男も前岸の方へちらと眼をやって、
「そうじゃ、鵜さえうまく使えば、鮎は獲れるに定っておる、鵜をうまく使うがかんじんじゃ」
 と、これも顔で笑った。前岸の樹木の間には黒い大きな瓦屋根が微に黒く見えていた。それは日蓮宗法国寺に属する法華寺の別院であった。他の二人の眼もちらとそれに往った。
 本流から岐れた一条の流れが斜に来て磧の裾で岸の竹藪に迫っていたが、そこには二三艘の小舟が飛とびに繋いであった。四人はその小舟の方へ往った。莚包と焼明を持った背の高い男は、また鵜を持った角顔の男の方を見て、
「寺へ入って和尚のような真似をしておるが、あの痴漢のことじゃ、どんな用心をしておるかも判らん」
 と云いかけたところで、艪を持っていた男が遮って、
「鮎の用心なら知れたものじゃ、鮎の話は、まあ、舟へ乗ってからにしよう」
 と云った。それを聞くと莚包と焼明を持った背の高い男は、首を縮めるようにして口をつぐんでしまった。そして、一行は無言になって磧の裾へ往った。
 そこにはもう他に一組の鵜飼がいて、がやがやと云いながら一艘の舟をだしているところであった。四方はもうすっかりと暮れていた。
「もう舟を出している者がある、…

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