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女賊記
じょぞくき
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「日本怪談大全 第一巻 女怪の館」 国書刊行会
1995(平成7)年7月10日
入力者川山隆
校正者門田裕志
公開 / 更新2012-05-17 / 2014-09-16
長さの目安約 9 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 館林の城下では女賊の噂で持ち切っていた。それはどこからともなしに城下へ来た妖婦であった。色深い美しい顔をした女で、捕えようとすると傍にある壁のはめ板へぴったり引附いてそのまま姿を消すのであった。土地の人は何人云うとなしにそれを板女と云っていた。
「昨夜裏の方で犬が啼くから、出て往って見ると、ちらと人影が見えたが、板女かも判らない」
「某家の主人が、夜遅く帰っていると、某家の横で女と擦れ違ったと云うが、それがどうも板女らしい」
「一昨日の晩、某家の庭前に板女が立っていたので、そこの主人が刀を執って追っかけたが、そのまま見えなくなった、きっと傍のはめ板へ引附いていたろう」
「某町では、昨夜板女に、五十両盗まれた」
「某家では、板女が衣類を持って逃げようとするところを知って、妻女が長刀を持って切りかけると、壁厨の戸板へ引附いて消えてしまった」
「今朝、某寺の前を某が通っていると、板女らしい[#挿絵]な女が来るから、手執りにしようとすると、寺の板壁へ引附いて、そのまま見えなくなった」
「昨日の午、板女らしい女が、旅人の風をして通って往った」
「板女は数多の手下を伴れているらしい」
「板女の手下にも、やっぱり頭と同じように、はめ板へ引附いて、姿を隠す術を使う者がある」
「板女は切支丹の残党らしい」
「板女は所天のような壮い[#挿絵]な男を伴れている」
「一昨日の夕方、板女のような[#挿絵]な女が、某家の前を通って往くので、見ていると、その女が揮り返って、莞と笑った」
 奇怪な板女の噂は噂を生んで、城下の町では夜もおちおち眠らなかった。そのうちに某町の豪家で婚礼があって、親戚知己をはじめ附近の人びとがめでたい席へ招かれて御馳走になった。それは秋の夜であった。家の主人に豪家へ往かれた留守の女小供は、もしこの留守に板女にでも来られては大変だと思って、心ひそかに心配する者もあった。
「旦那がお帰りになるまで、家の周囲に気を注けなくちゃいかんよ」
 などと仲間に注意する武家の妻女もあれば、
「お松、裏の木戸をしっかり締めてお置きよ、こんな晩を板女が覘っているかも判らないからね」
 と、婢に戸締の注意する商家のお媽さんもあった。
「今晩あたり来ようものなら、ひと打ちだ」と、台所の隅で鼻の端を赤くして、おしきせの酒をちびりちびりとやる僕もあった。
 どこの庭にも蒼白い月の光があった。風も少し吹いていた。その風が庭の落葉樹の葉を落した。
「あれ、なに」
 と、女の子が耳を傾けて心配そうに聞くと、母親は強いて平気な顔をした。
「なんでもないよ」
「だって、がさがさと音がしたじゃないの」
 小供はまだ不安な顔をする。
「あれは風ですよ」と、云うような問答をやっている家もあった。
 夜はもう亥時に近かった。と、けたたましい女の悲鳴が聞えて来た。
「板女が来た、板女が来た、何人か来て……」…

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