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ガンバハル氏の実験(ラヂオドラマ)
ガンバハルしのじっけん(ラジオドラマ)
作品ID52305
著者岸田 国士
文字遣い新字旧仮名
底本 「岸田國士全集3」 岩波書店
1990(平成2)年5月8日
初出「文藝春秋 第五年第十一号」1927(昭和2)年11月1日
入力者kompass
校正者門田裕志
公開 / 更新2012-02-29 / 2014-09-16
長さの目安約 19 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

アナウンサーの紹介につづいて、
別のアナウンサーの声で――
――只今から、ガンバハル氏の「精神と電気」といふ御講演がございます。
ガンバハル氏の声――ええ、わたくしは、只今御紹介にあづかりましたガンバハルと申すものであります。生れは多分アフガニスタンあたりだと思ひますが、早く両親を失ひ、物心のつきます頃は、もう、ポートセードの船著場で、靴磨きをしてをりました。
 ところが、或る日のこと、モロツコの絨毯売が、わたくしを仏蘭西の貨物船に載せて、無理矢理にマルセイユへ連れて行きました。そこでわたくしは、例のドパンゴ婆さんと近づきになりました。この婆さんは、お聞き及びの方もありませうが、有名なソルシエール、つまり巫女であります。その婆さんのところへは、色々な人が出入りをしてをりました。露西亜の宮内官、独墺の学者、支那の政治家、それに、英国の相場師、これがなかなか沢山であります。そのうちで、わたしを可愛がつてくれた墺太利の心霊学者と、マルセイユ電力会社の技師、この二人が、何をかくしませう、わたしを今日あらしめた恩人であります。すなはち、心霊学と、電気学の二た道から、わたしの好奇心は眼をさまされたのでありまして、この二つの学問を究めることによつて、わたくしは新しい発見に到達することが出来たのであります。
 わたくしは、欧米のあらゆる都市で、機会ある毎に、この新学説を試みましたが、何分、手数のかかる実験を必要とする関係上、多くは、予期の結果を収めることができずに終りましたが、幸ひ、日本に参りまして、東京放送局の理解ある援助により、わたくしの実験は完全な成績を挙げる機会を得たのであります。
 扨て、一口に「精神と電気」と申しましても、それは、今日まで、仮説として行はれてをります牽強附会な唯物論的空想と違ひまして、人間の精神活動と宇宙の電気的現象との密接な関係を、立派に証明することができるのでありますが、その理論は、ここで簡単にお話ししましても到底おわかりになりますまいし、また、専門家以外には、それほど面白い話でもありませんから、すぐに、これからお目にかける、いや、お耳に入れる実験の説明をいたします。
 先づ、みなさんは、「千里眼」といふものを御承知だらうと思ひます。すなはち、透視といふやつであります。箱の中に隠されてあるもの、隔つた場所にあるものを、はつきり見つける一種の能力であります。この「千里眼」なるものを学者はどう説明してをりますか。心霊学上に一問題として、まだ誰もはつきりした学説を立ててはをりません。或は、「網膜によらざる視覚」の実験に成功した生理学者もあると聞いてをりますが、その実験は、まだ決定的な成績を挙げてはゐないやうであります。
 わたくしは、此の「千里眼」についても既に十分の研究を積んでをります。しかし、一方、かのテレヴイジヨン、即ち、無線映写の科学的進歩…

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