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迷子になつた上等兵(ラヂオドラマ)
まいごになったじょうとうへい(ラジオドラマ)
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「岸田國士全集3」 岩波書店
1990(平成2)年5月8日
初出「文藝春秋 第六年第三号」1928(昭和3)年3月1日
入力者kompass
校正者門田裕志
公開 / 更新2012-04-19 / 2014-09-16
長さの目安約 16 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

星野少尉
臼田軍曹
小西上等兵
兵卒A
同B
同C
同D
荒物屋の主人
その妻
その娘
[#改ページ]

大正二三年頃の秋

ある歩兵聯隊の夜間演習が東京近在の農村を中心として行はれる。

小銃の音が二三発、遠くで聞える。
やがて、小砂利を蹈む七八人の靴音。

星野少尉  此の将校斥候の任務、わかつたね。富岡、云つて見ろ。
兵卒A  はい。――星野将校斥候は、前哨中隊の前方約千五百米の……。何川だか忘れました。
星野少尉  蛭川……。
兵卒A  蛭川沿岸を捜索し、成し得れば敵の前哨本隊及び……。
星野少尉  お前は駄目だ。黒部、お前云つてみろ。
兵卒B  はい。――始めからでありますか。
星野少尉  始めからでなくつてもいい、わかつてゐれば……。
兵卒B  ……成し得れば、敵の本隊及前哨線の位置を報告すべし。をはりツ!

銃声二発、足音止む。

臼田軍曹  (声をひそめ)小隊長殿、もう敵の歩哨線は、其処であります。

長い沈黙。

星野少尉  馬鹿! そんなところにからだを出してをる奴があるか。
臼田軍曹  あの橋のところで銃声がしました。
星野少尉  斥候の衝突だよ、まだ歩哨線までは大分ある。おい。小西上等兵、お前、垂水を連れて、あの橋のところまで行け。異状がなかつたら銃を挙げるんだぜ。

二人の走り出す足音。

臼田軍曹  小隊長殿、月が出ました。
星野少尉  うん、月が出た。

長い沈黙。――遠くでけたたましい犬の啼声。

臼田軍曹  ほんとの戦争でもこんなものでせうか。
星野少尉  さあ……。こんなものかも知れん。
臼田軍曹  近いうちに戦争があるでせうか。
星野少尉  あるだらう。
臼田軍曹  何処とですか。
星野少尉  始まつて見なけれやわからんよ。敵といふやつは意外なところにゐるものだ。――富岡、眠つちやいかんよ。

二三人の笑ひを噛み殺す気配。

臼田軍曹  今度の聯隊長殿は大分猛烈ですな。
 夜間演習が三晩続いたことは始めてです。
星野少尉  お祭が三晩続いたと思ふさ。富岡の国の方ぢや、今頃、何とか祭りつていふのがあるんだらう。――おい、どうした、また眠つてるのか。
兵卒A  蛭川であります。
臼田軍曹  何を寝とぼけやがんでえ。

また、二三人の笑ひ声。

星野少尉  さ、合図をしてる。行かう。足音を立てないやうに、駈歩!

やはらかな土を踏む音。草叢のゆれる昔。銃声四五発。長い寂寞。やがて、其処此処に虫の声。

臼田軍曹  小西、大丈夫か。
小西上等兵  今、敵の斥候と衝突しました。多分、潜伏斥候だらうと思ひます。撃退しました。
星野少尉  よし。この道を退却したね。
小西上等兵  はあ。
星野少尉  臼田軍曹、一寸、懐中電燈を照らしてくれ。地図を見るから……。(地図をひろげる音)ははあ、この先の十字路が曲者だな。本道を避けて行かう。お…

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