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下司味礼賛
げすみらいさん
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「ロッパの悲食記」 ちくま文庫、筑摩書房
1995(平成7)年8月24日
入力者門田裕志
校正者仙酔ゑびす
公開 / 更新2012-01-13 / 2014-09-16
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 宇野浩二著『芥川龍之介』の中に、芥川龍之介氏が、著者に向って言った言葉、
 ……君われわれ都会人は、ふだん一流の料理屋なんかに行かないよ、菊池や久米なんどは一流の料理屋にあがるのが、通だと思ってるんだからね。……
 というのが抄いてある。
 そうなんです、全く。一流の料理屋というのは、つまり、上品で高い料理屋のことでしょう! そういう一流店でばっかり食べることが通だと思われちゃあ、敵わないと僕も思うのである、そりゃあ、そういう上品な、高い料理を、まるっきり食わないというのも、可笑しいかも知れない。たまにゃ、一流もよろしい。が、然し、うまい!って味は、意外にも、下司な味に多いのである。だから、通は、下司な、下品な味を追うのが、正当だと思うな。
 例えば、だ。天ぷらを例にとって話そう。いわゆるお座敷天ぷら。鍋前に陣取って揚げ立てを食う。天つゆで召し上るもよし、食塩と味の素を混ぜたやつを附けてもよし、近頃では、カレー粉を附けて食わせるところもある。そういう、いわゆる一流の天ぷら。その、揚げ立ての、上等の天ぷらを食って、しまいに、かき揚げか何かを貰って、飯を食う。或いは、これがオツだと仰有って、天ぷらを載っけたお茶漬、天茶という奴を食べる。そりゃあ、結構なもんに違いないさ。
 然し、そういう、一流の上品な味よりも、天ぷらを食うなら、天丼が一番美味い。と言ったら、驚かれるだろうか。抑々、天ぷらって奴は、昔っから、胡麻の油で揚げてたものなんです。だから、色が一寸ドス黒い位に揚がっていた。それを、見た目が下品だとでも言うのか、胡麻の油をやめて、サラダ油、マゾラを用いるようになったのは、近年のことである。これは、関西から流行ったんだと思う。そして、近頃では東京でも、何処の天ぷら屋へ行っても、胡麻の油は用いない(或いは、ほんの少し混ぜて)で、マゾラ、サラダ油が多い。だから、見た目はいいし、味も、サラッとしていて、僕なんか、いくらでも食える。
 然しだ、サラッと揚がってる天ぷら、なんてものは、江戸っ子に言わせりゃあ、場違いなんだね。食った後、油っくさいおくびが、出るようでなくっちゃあ、いいえ、胸がやけるようでなくっちゃあ、本場もんじゃねえんだね。ってことになると、こりゃあ、純粋の胡麻の油でなくっちゃあ、そうは行かない。だから、先っき言った天丼にしたって、胡麻でやったんでなくっちゃあ――此の頃は、天丼も、上品な、サラッとした天ぷらが載ってるのが多いが、それじゃあ駄目。
 丼の蓋を除ると、茶褐色に近い、それも、うんと皮(即ちコロモ、即ちウドン粉)の幅を利かした奴が、のさばり返っているようなんでなくっちゃあ、話にならない。その熱い奴を、フーフー言いながら食う、飯にも、汁が浸みていて、(ああ、こう書いていると、食いたくなったよ!)アチアチ、フーフー言わなきゃあ食えないという、そういう…

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