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氷屋ぞめき
こおりやぞめき
作品ID52326
著者古川 緑波
文字遣い新字新仮名
底本 「ロッパの悲食記」 ちくま文庫、筑摩書房
1995(平成7)年8月24日
入力者門田裕志
校正者仙酔ゑびす
公開 / 更新2012-01-16 / 2014-09-16
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


 近頃では、アイスクリームなんてものは、年がら年中、どこででも売っている。そば屋にさえも、アイスクリームが、あるという。
 私たちの子供のころは、アイスクリームなんてものは、むろん夏に限ったものだったし、そうやたらに売っているものではなかった。
 中流以上の家庭には、いまの電気洗濯機がある程度に、アイスクリームをつくる機械があって、時に応じて、ガラガラとハンドルを廻して、つくったものである。
 そのころのアイスクリームってもの、どういうものか、今のより、ずっと黄色かった。卵がうんと入っているように見せて、そんな色を着けたのかも知れない。
 映画館の中売りが売って歩いたのは、正にその黄色で、牛乳も何も入っていない、名前も、アイスクリンだった。
 アイスクリームよりも、もうちょっと安いのが、ミルクセーキ。
 これはたいていの氷屋に、一種の運動機具のごとき機械があってこれも手廻しで、註文に応じて、つくった。
 アイスクリームも、ミルクセーキも、その名は、そのまま今も残っているが、味は全く違ったものになった。昔のは、もっと原始的な味だったが、素朴でよかった。
 硝子の玉をつないだ、氷屋ののれんも、今はあんまり見られなくなったが、昔は、氷屋ののれんから夏が来たものだった。
 大阪の氷屋と東京のと、どう違うか?
 東京では、コップの底に、タネモノ(シロップなり小豆なり)を入れて、その上へ、氷をかいて積み上げる。
 大阪では、(小豆なんかは、やっぱり底にあったかな?)氷をかいて山にして、その上からシロップをかける。
 見た目は、赤や青で美しいが、私たちは、やっぱり東京流がいい。
 大阪といえば、ミルキンというのがあるのを御存知かしら。ミルキンとは、ミルク金時の略。金時とは、東京でいう氷小豆だ。その氷小豆の上から、ミルク(牛乳のところもあるが、コンデンスミルクを溶いたものが多い)を、ジャブジャブと、かけたもの。
 こいつは、くどいだろうと思ったが、ちょっと試みると、確かにくどいけれど、うまい。
 でも、お代りしたら、きっと腹を下すだろうと思った。が、意地きたなしの僕は、お代りをした。そして、予想通り腹下しをした。
 大阪の氷屋に、「すいと」と書いてあった。
「すいと」とは何だろう。すいとんのことでもなさそうだし――と、きいてみたら、ところてんだった。
 ところてんを、酢糸とは、シャレてる。



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