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忙ノ説
ぼうノせつ
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「朝野新聞縮刷版9」 ぺりかん社
1982(昭和57)年1月20日
初出「朝野新聞」朝野新聞社、1879(明治12)年1月12日
入力者森田詠子
校正者合山林太郎
公開 / 更新2011-03-20 / 2014-09-16
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)
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本文より


[#挿絵]上子性甚ダ閑ヲ好ム。而シテ一歳ノ中閑ヲ得ルノ日ハ稀ニシテ毎ニ忙ニ苦シム。窃カニ謂フ新年ハ少シク閑ヲ貪リ以テ自カラ慰セント。然ルニ一日ヨリ今日ニ至ル迄一日ノ閑無ク一刻ノ閑無ク困却極レリ。家ニ在レバ故交新知来タリテ応接暇無ク、社ニ出レバ論士説客来タリテ送迎ニ労ス。之ヲ謝セントスレバ無礼不敬ヲ以テ譴責サレンヲ恐ル。之ヲ謝セザレバ新聞ノ手伝ヲ為シ火之元ヲ見廻ハル能ハズ。朝ヨリ暮ニ至ル迄息ヲ休ムル間無シ。人ハ道フ新年頗ル閑ナリト。我レハ道フ新年却テ忙シト。嗚呼人生能ク此ノ忙ヲ免レテ閑ヲ占ムル者幾許有ルヤ。和凝ハ云フ日忙シ、楊万里ハ云フ月忙シ、陸亀蒙ハ云フ雲忙シト。牧之ハ霹靂忙シト云ヒ、放翁ハ燕子忙シト云フ。世間百物皆尽ク忙シキカ。古人曰ク諸天互魔擾、救護也尊忙、ト。然ラバ則チ恬淡虚無ノ仏子モ亦忙ヲ免カレザルカ。台閣ハ草詔ノ忙シキ有テ村落ハ打稲ノ忙シキヲ見レバ、我等ノ生計ニ忙シキ亦何ゾ言フニ足ランヤ。試ミニ看ヨ海ノ内外汽船忙シク奔リ汽車忙シク馳セ、郵便来去忙シク電信往復忙シ。天下百般ノ事忙ニ非ザレバ以テ盛大富強ヲ致ス能ハザル知ル可キノミ。簿書計算忙シカラザレバ商社衰微シ、印刷配達忙シカラザレバ新聞繁昌ナラズ。忙ノ利用大ナル哉。人々宜シク忙ヲ以テ忙ニ交ハル可シ。若シ忙ヲ厭フ甚ダシクバ急々死シ了ルニ若カズ。死セバ則チ万事休ス。復タ何ゾ忙ヲ之レ憂ヘンヤ。是ニ由テ之ヲ観レバ忙ハ人生ノ免カレ難キ所ニシテ、[#挿絵]上子ノ閑ヲ好ムハ蓋シ不所存ノ甚シキ者カ。然リト雖ドモ天下ニ閑人寡カラズ。若シ己レガ閑ヲ以テ人ノ忙ヲ恕セズ。煙草幾管捻リ来タリ捻リ去リ、空々タル談話百回説クモ益無ク終日聴クモ利無クシテ、其ノ尻ノ長キ絛虫ニ百倍スル如ク、屡バ他人ノ事業ヲ妨グル者ニ至テハ真ニ辟易畏避セザルヲ得ズ。為メニ忙ノ説ヲ作テ其人ニ献ズ。



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