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三国志
さんごくし
副題04 草莽の巻
04 そうもうのまき
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「三国志(三)」 吉川英治歴史時代文庫、講談社
1989(平成元)年4月11日
「三国志(二)」 吉川英治歴史時代文庫、講談社
1989(平成元)年4月11日
入力者門田裕志
校正者仙酔ゑびす
公開 / 更新2013-09-17 / 2014-09-16
長さの目安約 312 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

巫女




「なに、無条件で和睦せよと。ばかをいい給え」
 郭[#挿絵]は、耳もかさない。
 それのみか、不意に、兵に令を下して、楊彪について来た大臣以下宮人など、六十余人の者を一からげに縛ってしまった。
「これは乱暴だ。和議の媒介に参った朝臣方を、なにゆえあって捕え給うか」
 楊彪が声を荒くしてとがめると、
「だまれっ。李司馬のほうでは、天子をさえ捕えて質としているではないか。それをもって、彼は強味としているゆえ、此方もまた、群臣を質として召捕っておくのだ」
 傲然、郭[#挿絵]は云い放った。
「おお、なんたることぞ! 国府の二柱たる両将軍が、一方は天子を脅かして質となし、一方は群臣を質としてうそぶく。浅ましや、人間の世もこうなるものか」
「おのれ、まだ囈言をほざくかっ」
 剣を抜いて、あわや楊彪を斬り捨てようとしたとき、中郎将楊密が、あわてて郭[#挿絵]の手を抑えた。楊密の諫めで、郭[#挿絵]は剣を納めたけれども縛りあげた群臣はゆるさなかった。ただ楊彪と朱雋の二人だけ、ほうりだされるように陣外へ追い返された。
 朱雋は、もはや老年だけに、きょうの使いには、ひどく精神的な打撃をうけた。
「ああ。……ああ……」
 と、何度も空を仰いで、力なく歩いていたが、楊彪をかえりみて、
「お互いに、社稷の臣として、君を扶け奉ることもできず、世を救うこともできず、なんの生き甲斐がある」と歎いた。
 果ては、楊彪と抱きあって、路傍に泣きたおれ、朱雋は一時昏絶するほど悲しんだ。
 そのせいか、老人は、家に帰るとまもなく、血を吐いて死んでしまった。楊彪が知らせを受けて馳けつけてみると、朱雋老人の額は砕けていた。柱へ自分の頭をぶっつけて憤死したのである。
 朱雋でなくとも、世の有様を眺めては、憤死したいものはたくさんあったろう。――それから五十余日というもの、明けても暮れても、李[#挿絵]、郭[#挿絵]の両軍は、毎日、巷へ兵を出して戦っていた。
 戦いが仕事のように。戦いが生活のように。戦いが楽しみのように。意味なく、大義なく、涙なく、彼らは戦っていた。
 双方の死骸は、街路に横たわり、溝をのぞけば溝も腐臭。木陰にはいれば木陰にも腐臭。――そこに淋しき草の花は咲き、虻がうなり、馬蠅が飛んでいた。
 馬蠅の世界も、彼らの世界も、なんの変りもなかった。――むしろ馬蠅の世界には、緑陰の涼風があり、豆の花が咲いていた。
「死にたい。しかし死ねない。なぜ、朕は天子に生れたろうか」
 帝は、日夜、御涙の乾く時もなく沈んでおられた。
「陛下」
 侍中郎の楊[#挿絵]がそっとお耳へささやいた。
「李[#挿絵]の謀臣に、賈[#挿絵]という者がおります。――臣がひそかに見ておりますに、賈[#挿絵]には、まだ、真実の心がありそうです。帝の尊ぶべきことを知る士らしいと見ました。いちどひそかにお召しに…

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