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現下に於ける童話の使命
げんかにおけるどうわのしめい
作品ID52484
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 13」 講談社
1977(昭和52)年11月10日
初出「蚕糸会館に於ける日本国民童話協会発会式講演」1941(昭和16)年6月3日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2018-04-07 / 2018-03-26
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 この度、日本国民童話協会が創立されまして衷心からお喜びの言葉を申し上げます。就きましては、この機会に聊か私見を述べ、またこれからさき出発せられる皆様に対して希望を申し上げ度いと思うのであります。
 今迄童話をお話になる皆様は、各[#挿絵]各所に於いて特色を発揮され、民衆の教化又子供の教化に当たられて来たのであります。そうしてそれぞれ立派な仕事をなされて来たのであります、それが凡ての利害を棄てて、今度ここに合同され一つの指導原理に統一されたと云う事は、今日の日本にとって、教化運動に於ける一大動力となるべきものと考え、喜ばしく存ずるのであります。
 そうして凡ての文化運動も斯うなければならぬと思います。何故ならば、日本は何れの方面に於いても非常時に際会して居ります。就中、思想問題に於いて、今民族文化と云うものが創造されなければ、如何に外に於いて日本が完全に戦っても駄目である。この思想問題の行き詰まって居るのを打開しなければならぬと云う使命が、文化人の上に重く掛かって来た事であると思います。民族文化を如何にして振興するか。これは一言にして云えば、民族悉くが振るいたって、一つの目的に向かって邁進しなければ到底駄目である。それをするには国民に一つの希望を持たせ、目的を持たせなければならぬ、これは即ち童話の使命であると思います。

 童話と云うものを余りに低く評価して来たのでないか。今日の子供の頭を統一して行く、子供の思想を統一する、子供を何処に連れて行くかと云う事が、指導階級に分かって居ったならば、児童の思想統一は軈て日本国民の思想統一になると思います。青少年の思想統一を抜きにして、国民の思想統一はあり得ないと思います。それは文化の上に於いて色々の分野がありましょうけれども、私は矢張り童話と云うものは非常な力を持って来るのではないかと思います。
 何故かと云うと私共は、日本の昔話に依って教化されて来たのであります。我々の聞いた昔話は、今から見れば色々に欠点もあったでしょう。併しながら仇討ちの話にしても、滑稽な話にしても、どんな話をとって来ても、そこには昭々たる伝統があった。伝統に準じて話が出来て居った。そこには矢張り祖先の訓戒があった。民俗の血が流れて居った。矢張り昔のお話には、日本国民の伝統的精神が、その中にあった。これが矢張り子供達に与えた感銘と云うものは深いのであって、我々が今日斯うやって成長して居るのも、世の中を見る目を養われたのも、子供の中に聞いたお話が、余程力になって居ると云う。それのみならず斯う云うお話が日本の各農村及び都会にお話されて行くと云う事は、要するには国民の心と心とを結合する作用をなして居った。お話に依って思想の統一を図り、国民の融和を図ると云う事は、知らず、知らずの間に出来る事であって、お話の使命の尊い事は、ここにあると思います。
 それが…

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