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青い石とメダル
あおいいしとメダル
作品ID52533
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 8」 講談社
1977(昭和52)年6月10日
初出「婦人倶楽部」1932(昭和7)年1月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者藤井南
公開 / 更新2016-01-06 / 2015-12-24
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 犬ころしが、はいってくるというので、犬を飼っている家では、かわいい犬を捕られてはたいへんだといって、畜犬票をもらってきてつけてやりました。
 しかし、かわいそうなのは、宿なしの犬でありました。寒い晩も、あたたかい小舎があるのでないから、軒下や、森の中で、眠らなければなりません。また、だれも、畜犬票などをもらってきて、つけてくれるものがなかったのです。
 勇ちゃんは、外を歩いているとき、いろいろの犬を見ました。首輪に、札のついているのは、どこを歩いていても、安心だから、べつになんとも思わなかったけれど、なかには、首輪のないもの、また、首輪はあっても、札のついていないものがありました。それらの犬たちは、捨てられたか、森や、空き家の中で生まれたかして、まったく飼い主のないものでありました。
 しっかりした人間の助けを受けているものと、なんの助けもないものと、どちらがしあわせでありましょう?
「犬ころしに見つかったら、いつ捕まえられてしまうかしれない。」と、勇ちゃんは、札のない犬を見るとあわれに思いました。そして、そのたびに、クロのことが、心配でならなかったのでした。
 勇ちゃんの、かわいがっているクロは、やはり、宿無し犬であります。森の中で生まれて、森の中で大きくなったので、めったの人にはなつきませんでしたが、勇ちゃんは、自分のもらったお菓子を分けてやったり、また、魚の骨があれば、わざわざ持っていってやったり、平常から、クロをかわいがっていましたので、クロは、だれよりも、いちばん勇ちゃんになついていました。
 ほかの人が、クロを呼ぶと、すぐ近くまできて、尾を振るけれど、けっして、頭をなでようとしても、そばへはきませんでした。そして、注意深く、相手の顔色をうかがっていました。勇ちゃんが呼ぶと、勇ちゃんだけには、安心しているとみえて、そばへ寄り、足もとへからだをすりつけました。そして、頭をなでてやると、目を細くして、クン、クンといって喜びました。だから、勇ちゃんが、クロをかわいがるのも無理はありません。
「ねえ、お母さん、クロを家の犬にしてくださいませんか。」と、勇ちゃんは、たびたび、頼んだのであります。
 いつも、お母さんは、こころよい返事をしてくださいませんでした。
「生きものを飼うのは、めんどうです。しまいには、その世話を私がしなければなりませんから……。」と、おっしゃいました。
「いいえ、お母さん! 僕が、犬の世話をします。」と、勇ちゃんは、いいましたけれど、お母さんは、なかなかそれをお信じになりませんでした。
 また、あるときは、勇ちゃんがしつこく頼むと、お母さんは、
「いつかも、おまえがそういって、小鳥を飼ったことがあるが、その世話は、みんなお母さんがしなければならなかったじゃありませんか? 小鳥とちがって、犬の世話は、私にはできませんから。」と、おっし…

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