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赤いガラスの宮殿
あかいガラスのきゅうでん
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 6」 講談社
1977(昭和52)年4月10日
初出「赤い鳥」1929(昭和4)年1月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者七草
公開 / 更新2015-10-31 / 2015-09-01
長さの目安約 10 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 独りものの平三は、正直な人間でありましたが、働きがなく、それに、いたって無欲でありましたから、世間の人々からは、あほうものに見られていました。
「あれは、あほうだ。」と、いわれると、それをうち消すもののないかぎり、いつしか、そのものは、まったくあほうものにされてしまうばかりでなく、当人も、自分で自分をあほうと思いこんでしまうようになるものです。平三も、その一人でありました。
 夏のはじめのころであります。
 往来を歩いていると、日ごろ、顔を知っている、村に住む若夫婦が旅じたくをしてきかかるのに出あいました。男は、なにか大きな荷を背負っています。後から、やさしい若い女房が、手ぬぐいを頭にかぶって、わらじをはいてついてきました。
「どこへいくんだな。」と、平三は、びっくりした顔をしてたずねました。
「旅へ出かけるだよ。この村にいたっていいことはない。旅へいってうんと働いてくるだ。平さんも、いかないか。」
「いつ、この村へ帰るだ。」
「それは、わからない。」
「旅って、どこだな。そこへさえいけばどんないいことがあるけい。」
「それは、広いだ。どこって、おちつく先は、わからないが、たんといいことがあると聞いているから出かけるだよ。」
「その広い土地を掘ったら、金か、銀でも出てくるか……。そんなら、おれもいって、精を出して掘るべい。」
「金も、銀も、なんでも出てくるだ。おれたちがいって、よかったら、たよりをするだよ。そうしたら、おまえも、出かけてきべい。そんだら、達者で暮らしなよ。」
「そんだら、二人も、道中気をつけていきなよ。」
 平三は、いつまでも道の上に立って、二人の姿の消えてゆくのを見送っていました。
 それから、日がたちました。
 彼は、村はずれの丘のふもとで、ひなたぼっこをして、ぼんやりと空想にふけっていました。おりおり思い出したように、初夏の風が、ため息をつくように吹いて、彼のほおをなでて過ぎました。
 そのとき、三十五、六の女が、頭髪を乱して、ぶつぶつとつぶやきながら、せわしそうな足どりで、なにかざるにいれて、小わきに抱えながら、平三の前を通り過ぎようとしました。
 平三の腰を下ろしているうしろには、こんもりとした野ばらのやぶがあって、真っ白な花のさかりでした。それには、無数のみつばちが集まっています。しかし、そんなことには、ここを通りかかる女も、また平三すらも気づいていないようすでした。
 彼は足音を聞いて、ふと顔を上げると、やはり見知りの村の女でしたから、
「こんにちは、どこへいかっしゃる……。」と、声をかけました。女は、びっくりして、こちらを向きました。その目の中は涙にぬれていたのです。
「かわいい、大事な坊やが死んでしまって、おもちゃがあると思い出していけないから、みんな河に流してしまおうと思って、捨てにいくところだよ。」
「ほんとうに、かわ…

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