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生きた人形
いきたにんぎょう
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 6」 講談社
1977(昭和52)年4月10日
初出「サンデー毎日 7巻49号」1928(昭和3)年10月28日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者七草
公開 / 更新2015-10-31 / 2015-09-01
長さの目安約 10 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 ある町の呉服屋の店頭に立って一人の少女が、じっとそこに飾られた人形に見いっていました。人形は、美しい着物をきて、りっぱな帯をしめて、前を通る人たちを誇らしげにながめていたのです。
「私が、もしあのお人形であったら、どんなにしあわせだろう……。なんの苦労もなしに、ああして、平和に、毎日暮らしていくことができる。そして、前を通る男も、女も、みんな自分を振りかえって、うらやましげに見ていくであろうに……。」と、彼女は、ひとり言をしていたのでした。
 このようすを、さっきからながめていた、この店の主人は、頭をかしげました。
「なんという器量のいい娘さんだろう……。しかし、ようすを見ると、あまり豊かな生活をしているとは思われない。さっきから、ああして、人形に見とれているが、ものは相談だ。あの娘さんは、雇われてきてくれないだろうか?」と、主人は考えたのでした。
「もし、もし。」といいながら、彼女のかたわらへ寄って、主人は、軽く、その肩をたたきました。
 少女は、びっくりして、振り向きますと、主人が、にこにこした笑い顔をして立っていました。
「おまえさんは、さっきから、なにを考えておいでなさる?」と、主人は、やさしく問いかけました。
 少女は、ちょっとはじらいましたが、正直に、
「もし、私が、このお人形であったら、世の中の苦労ということも知らず、そのうえこんなに美しい顔をして、どんなにか幸福だろうと思っていたのです。人間が、なんでも思ったとおりになりさえすれば、この世の中に、不幸というものはないと考えていたのでした。」と、答えました。
 人のよさそうな主人は、けたけたと笑いました。
「お嬢さん、あなたのお顔は、この人形よりはよっぽど、美しゅうございますよ。もし、あなたさえ聞いてくださるなら、この人形の着物をあなたにあげて、そのうえ給金もさしあげますから、明日から、人形の代わりになってくださいませんか?」と、主人は、少女に向かっていいました。
「お人形の代わりにですって?」
「そうです。生きた人形となって、この店さきにすわってくださるのです。」
「私が、お人形になるのでございますか?」と、少女は、黒い、うるおいのある目を大きくみはりました。
「そうしたら、どんなに、この店の評判となるでしょう。あなたは、たしかに、この人形よりは、幾倍美しいかしれない。」と、主人はいいました。
 少女は、じょうだんでなく、ほんとうに主人が相談をしましたので、自分には、願いのあることでもありますから、なにをして働くのも同じだと考えて、とうとう翌日から、この店の飾りをつとめる、生きた人形になることを承諾しました。
 生きた人形が、店飾りになったといううわさが四方に広まりますと、町の人々は、みんな、一度それを見ようと前へやってきたので、この呉服店の前は、いつもにぎやかでありました。
「なかなか美人…

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