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予が本年発表せる創作に就いて
よがほんねんはっぴょうせるそうさくについて
作品ID52743
副題沢山書いた
たくさんかいた
著者牧野 信一
文字遣い新字旧仮名
底本 「牧野信一全集第二巻」 筑摩書房
2002(平成14)年3月24日
初出「新潮 第四十一巻第六号(十二月号)」新潮社、1924(大正13)年12月1日
入力者宮元淳一
校正者門田裕志
公開 / 更新2011-07-29 / 2014-09-16
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


 四月に書いた「父を売る子」は思ひ出すだけでも閉口したが、此頃になつては澄んだ心で夢のやうな気がする。三月の始めに十二三枚書いて、たしか退屈してそれなりに放つておいたのだが、その月に父が急死した、そして四月になつてから凋まうとする心に鞭打つて更に十二三枚附けたして発表した。
 その後書いた「父の百ヶ日前後」は自分の最初の力作のつもりである。これを書きあげてから、重苦しい父からの借着の外套を脱ぎ棄てた気がした。二作とも出来栄えは別にしても、周囲の知己から兎も角讚められたことだ。讚められて悦んで、作中のモデル人物達に面目なき思ひがしたが、「俺の文学なのだ。これが俺の文学なのだ。」と確信してゐるので、讚められる毎に喜悦の色を露はにせずには居られなかつた。
 以上の他「スプリングコート」(これは去年の十二月慌しく書き、一月発表。当時の慌しさにも今に思へば多くの感慨もあり。)
「渚」「或る五月の朝の話」「明るく暗く」「蝉」等書いた。
 沢山書いた気がしてゐたが(実際これだけ書いたのは従来に比べれば最も多いが、従来は怠け過ぎてゐたので比較にもなるまいが。)、斯う題名を書きならべて見ると一寸アツケない気がする、けれど自分にとつては一杯の力だつたに相違ない、満足もしてゐなければ、と云つて別段後悔の念もない。



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