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あやふやなこと
あやふやなこと
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「牧野信一全集第二巻」 筑摩書房
2002(平成14)年3月24日
初出「文章倶楽部 第十巻第九号(九月号)」新潮社、1925(大正14)年9月1日
入力者宮元淳一
校正者門田裕志
公開 / 更新2011-07-21 / 2014-09-16
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 記者。お忙しいところへ、甚だ恐縮ですけれど、「私が処女作を発表するまで」と云ふやうなことに就いて、何かお話して下さいませんか。
 牧野。処女作は、学生時分――早稲田に居る間――に、二つ書いた。どつちが先だか忘れて了つたが、「爪」と云ふのと、「闘戦勝仏」と云ふのとである。「爪」を書いたのは慥か冬だつた。そして「闘戦勝仏」の方は夏だつた。兎も角、どつちが先だか判然しないが、非常な怠け者で、この二つしか書かなかつた。
 記者。処女作として発表したのも、その二篇なんですか。
 牧野。それは、ずつと蔵つて置いたまゝで学校を出てから、友達と、「十三人」と云ふ同人雑誌の仲間に這入り、その第二号に「爪」を載せた。そして、その四号だかに「ランプの明滅」と云ふ、やはり十枚足らずのものを出した。その次には、島崎先生から、「新小説」が新進作家号を出すから、それに何か書いて見ないかといふおはなしで、「凸面鏡」と云ふ十五六枚のものを書いた。それから、「若い作家と蠅」とか、「蚊」とか……など云ふ変な小品を「十三人」に出してゐた。「闘戦勝仏」は「十三人」の一周年号の時、同人が皆んな揃つて書くと云ふのだつたが、私は慥か、夏で、田舎へかへり、海へばかり這入つて居て、何も書けなかつた。それで、秋になつて、東京に出て来てから仕方が無く、大へん気おくれがしたが、「闘戦勝仏」を出したのである。それが慥か処女作には違ひないのだが、別段それが処女作のやうな気もしないので……皆んなその当時のものは、同じやうな気がするのである。それで今、いろ/\な名前を挙げて見たのである。
 記者。甚だ失礼なお訊ねになりますが、さう云ふ「爪」とか、「闘戦勝仏」とか云ふものをお書きになる前に、文学はどう云ふ傾向を辿らなければいけないとか、これまでの文学はどう云ふ傾向を辿つて来てゐたとか、これからはどう云ふ風に進んで行かなければならないと云ふやうなことを研究しておゐででしたか。それともまた……。
 牧野。いや、そんなことは、僕はさつぱりしなかつた。
 記者。さう云ふことは、やはり、書きながら、必要に応じて研究して行つた方がいいでせうかね。
 牧野。僕はどうも、さう云ふ研究心が、少しも無いので……。
 記者。では、自分だけの道についてもお考へになつた事は御座いませんか。
 牧野。そんなことも、さつぱり無かつたですな。
 記者。処女作を書く以前には、主にどんな人の作品をお読みでした。
 牧野。それもまた、殆んど誰のものも読まなかつたですな、その時分。
 記者。殆んどの程度で、いくらかは読んだでせう。
 牧野。いや。全然何も読まなかつたです。だから、少しも文壇のことは知らなかつたんです。
 記者。それはまた……他人の作品なぞには無関心で、御自分だけの世界を拓いて行かうとでも思つてゐらつして、文壇なぞは、全然問題にして居なかつた訳なん…

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