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会話一片
かいわいっぺん
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「牧野信一全集第三巻」 筑摩書房
2002(平成14)年5月20日
初出「時事新報 第一六三六一号」時事新報社、1929(昭和4)年1月5日
入力者宮元淳一
校正者門田裕志
公開 / 更新2011-08-21 / 2014-09-16
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)
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本文より


(Aは友Bは私)
 A「潤一郎の卍といふのを読んでゐる?」
 B「面白さうだ、が余り短いので読まないよ。彼のものは長いのを一時に読むのが愉快だ。本になつたら読む。」
 A「僕は大概始めから続けて読んでゐるが相変らず面白いよ。」
 B「さう云へば君、菊池寛の半自叙伝は素的に面白いよ。今月だつてたつた二頁しか出てゐないが、これは僕は、毎月何んなに短くても屹度読んでゐる。第一回からずつと愛読してゐる。いつだつたかの所に、入学試験にパスして国へ帰る途中、さすがに嬉しく、汽車のデツキに出て口笛を吹いた――などゝいふようなところがあつたがそんな風ないろ/\一寸した箇所に僕は理屈のない面白味を覚えるよ。」
 A「卍にしろ、半自叙伝にしろ、兎も角あんまり短過ぎるね。少くとも里見[#挿絵]の大地位の分量を望むね。」
 B「うむ。」
 A「夢魔(岡田禎子作)といふ戯曲は仲々しつかりしたものだよ。理智的で、堅実な筆致で、そしてぎごちなくない、相当落着き払つた清新味もある。屹度この作家は勉強家で、堅実な歩みを続けて、佳き戯曲家になるだらうと思ふよ。」
 B「さうか、ぢや読んで見よう。」
 A「それから尾崎士郎の(悲劇を探す男)が力作だつた。この作家は味気ないが、厭味のない、勇敢な作家らしいね。変に暗くもないし、無理な明るさもない、そして何となく薄ら寒くさつぱりとしてゐる。関はず、自由に動いてゐる。」
 B「僕もさう思ふ。」



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