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舞踏学校見物
ぶとうがっこうけんぶつ
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「牧野信一全集第四巻」 筑摩書房
2002(平成14)年6月20日
初出「婦人サロン 第二巻第九号(一周年紀念九月特輯号)」文藝春秋社、1930(昭和5)年9月1日
入力者宮元淳一
校正者門田裕志
公開 / 更新2011-09-19 / 2016-05-09
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 とても蒸暑い日でした。私たちは、暑い暑い、今日は殊更に暑いではないか、僕はさつきまで自分の部屋に居たのであるが、凝つとしても汗が流れたよ、身の扱ひように困つて転々してゐた仕未だ。昨日と今日は室内でも九十度を超へたのだからね――などゝ話合ひ、自働車に乗り、京王電車に乗り、そして河添ひの道を歩き、汗を拭ひ素晴しい暑さだ! と繰り反しながら、遥々と多摩川のほとりまで出かけて、爽快な舞踏学校の授業を参観させて貰ひました。
 爽快! さうだ、ほんとうに、その舞踏学校の可憐な学生達の花々しい稽古の様はこの形容詞の持つ感じに尽きた有様で、観る者に汗を忘れしめ、感心の心を抱かせました。
 その学校の門をくゞると、妙なるピアノの音に伴れて朗らかな合唱の声が、水のせゝらぎの如く洩れ聞え、更に耳を傾けて見ると、いとも制然たる足踏みの音が、物々しいリズムを持つて何といふこともなしに厳か気に響いて来るのに気づき、私達参観者は忽ち胸に一脈の緊張感を覚えました。
 そこで私達は足を速め、門を叩き、刺を通じて、案内を乞ひました。
 さて、そのギムナジウムの光景を簡単に識しませう。――ギムナジウムと称ぶのは適当か何うか知りませんが、敬意を払つて私は勝手にその教場を斯く称びませう。何故なら私は、その峻烈なる稽古振りを眺めて思はず古のスパルタの体育場を連想したからであります。近頃、ダンスとか、レビユウとか、踊り子等といふ言葉を口にすると稍ともすれば飛んだ艶かしい空想を強ひられるのが街頭での常識ですが、一度びこの体操場に入つて、その練習の光景を眼にしたらば、その目醒しい学生等の活躍の素晴しさに打たれて、忽ち堕気も暑気も打ち払はれて――健やかさ、目醒しさ、朗らかさ、烈しさ――にあてられて、思はず力を覚へ、こよなき清新の快のみに襲はれました。
 学生等は最も軽やかな「運動シヤツ」一つです。素足です。海水浴場の少年かと見まごふばかりの、元気に充ち溢れた娘達です。美しいイボンヌ先生が、ワンツウ、スリー……何々何々! と恰も銀鈴のやうに澄み渡つた号令をかけ、ピアノが鳴り始めると、学生等は一勢に足並みそろへて、それからそれへ、様々な類ひの運動を懸命に繰り返します。フツト・ボール競技を振りつけした旺んな体操が始まります。飛ぶ、飛ぶ、飛ぶ! グラウンドに現れた選手は身振りよろしく空を蹴つて、グルグルと飛び回る、ボールを奪ひ合ふ様がある、一勢に脚をふまへて縦にそろつて、脚から脚の間を球をうけ渡して行く様がある――それツ! と、再び飛び散り、再び相寄り、床に伏して、キヤプテンの脚にふまへられる颯爽たる様がある、あしのうらの音が、ヒタヒタと床に、物凄まじく、拍手の音のやうに響き渡る、――また、三十人? もの生徒がヒラヒラと舞ひ出て、夢見る如き眼ざしで両腕をハラハラと打ちふるはせながら、トウ・ダンスの練習がはぢまる。

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