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〔小林秀雄氏への公開状〕
〔こばやしひでおしへのこうかいじょう〕
作品ID52789
著者牧野 信一
文字遣い新字旧仮名
底本 「牧野信一全集第四巻」 筑摩書房
2002(平成14)年6月20日
初出「作品 第一巻第六号(十月号)」作品社、1930(昭和5)年10月1日
入力者宮元淳一
校正者門田裕志
公開 / 更新2011-09-13 / 2016-05-09
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


 この手紙を書くべく考へはぢめて、もう十日あまりも経つのであるが、手紙といふても稍かたちの違ふものであるから、起きあがつてからと思つてゐるうちに、中々風邪が治らず、もう間に合ひさうもなくなつたから、寝たまゝ弁解風のことを書く。
 この間、風邪をひいて寝たはぢめに、いつかの君の小篇小説「からくり」を読み直して、仲々面白かつた。これに就いての、愉快な読後感を書きおくらうと思つた。
 いつぞや、レインボーのサロンで、君の眼前でこれを読み、君に読後感を叩かれた時は、内心今度と同じ面白さを感じてゐたにも関はらず、つい、それをそのまゝ云ひ損つてしまつた。一言か二言何か云つただけに終つてしまつたのだつた。
「この次には、こんなのではない、もつと別なのを書く、書いたら見せるぞ。」
 と君は、あの時云つた。
「見せて呉れ。」
 僕は即坐に答へた。
 その時、それに就いての話は、それだけで終つてしまつた。
 あれは、たしか夏のはぢめの頃ではなかつたか。――そして、あれきり、別の作を君は未だに示さない。僕は待つてゐる。先月だつたか、さいそくの手紙を出したと思ふが。「別なの――」は、未だ知らぬが、僕は、あの短篇のやうなものでも、面白い――僕は、未知の作者のものとして、不意にあれを発見したならば、その時直ちに、その作家に手紙を書いたに違ひない。
 斯う書いて来ると、次第に亢奮を覚へて来て、今日の風邪状態では、書つゞけるのが困難になるから――次の機にゆづる。
 次の機会といふのは、君に依つて第二作を示された時と、約しておく。手紙を出すであらう。
 とう/\僕も此方の定つた住人となつた。下宿生活の疲労が発し加けに風引きでもう半月になるが、一度そつちに出かけたきり、毎日寝続けた。――僕は、この間田舎から携へて来た一枚の石版画――ピエル・フオンの古城の図を額ぶちに入れて、壁に掛け、城内に残存してゐるといはるる、円卓子の騎士達やシヤルル・マーニユの兵士等のアパートや食堂を忍びながら、余もこの病ひの恢復を待つて、この新居で、最も盛大なる Round table の夜会を催さう――と計画してゐる。



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