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青白き公園
あおじろきこうえん
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「牧野信一全集第一巻」 筑摩書房
2002(平成14)年8月20日
初出「少女 第九十五(十一月号)、九十七、一〇〇、一〇二、一〇五号(御渡欧記念の巻 九月号)」時事新報社、1920(大正9)年10月6日、12月、1921(大正10)年3月、5月、8月8日
入力者宮元淳一
校正者門田裕志
公開 / 更新2011-05-12 / 2014-09-16
長さの目安約 35 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

うるはしくもまたおそろしき
声もつ乙女 ライン河の姫よ
湖水に沈みたる鐘の響
森の姫ラウデンデラインよ
星の世界へ昇りたるケルンよ
さうして、花子さんも
千代子さんも
涙など流してはいけません
皆なで一所に これからは
遊びませう いつまでも
この美しい公園の中で

第一章 その序に


 ……親しき人々よ、谷間に咲ける真白き花はわれらが為に開くなり、われらはそが花の香りを胸に飾りて、清麗な大空のもとを、――涙はわれらが夢をうるほす宝石なれば深く深くふところに、そはかの古の姫がいとも稀なる緑石を宮殿の倉の底へ蔵したるが如くに……深く秘めて、――。
 いざ行かむ、月おぼろなる夜は、われらが胸に翳せる白百合の香りこそ光らむ、そはまた百千の妖魔をくらます白金の剣ともなりて月光と共に競ふらむ……。
 ――何の為に私は今、こんなわけもわからないやうな文章を綴つてゐるのでせう、私は今、「少女」に連載しやうと思ふ小説を書かうと思つて、さうです、もう今宵は早くから机に向つて切りに想ひを練つて居るのですが、私の頭に浮ぶ雪のやうな幻が余りに美しくて、どこからどう手をおろしていゝか全く迷はずには居られません。
 皆さん、ちよつと静かな窓の外を御覧なさい、何と麗しく天心に止まつた秋の月は輝いて居るではありませんか。私は今ペンを置いてその通りにしてゐます。月の澄み切つた色、それは何に例へたらいゝでせうか、白金にも見えます、金色にも見えます……いやいや色彩に依つて区別することはあんまり定り切つた見方です、音楽にも例へませうか、すすり泣くヴイオロンの音、果てはうち悦べる水の精などの楽しげなる舞踏にも例へませうか。私は今ペンを置いて無心に月を眺めて居ります、昔の人々も今私達が月を眺めて酔ふてゐるのと同じやうに――この月を、この私達の眼の前に懸つてゐるこの月を……あゝ、それは私達と全く同じ心で讚えたのかと思ふと、今更のことではありませんが、私は不思議に思はれてなりません。百人一首や古今集に歌はれてゐる月も、直ぐそこに見ゆる、その月かしら。秋は室町の朝、やむごとなき人々が琴を弾じ或はしほり戸に凭りて遠く想ひを笛に寄せては、十五夜の宵の宴に興たけて、更けるも知らず歌を吟じたのも、やつぱり直ぐそこに見ゆる、その月の為にかしら。――私ばかりでなく大概の方は、こうしてゐたならばこんな事……もつと/\際限のないことを考へます。
 ――到々私は、世界は広いけれど、さうして世界の歴史は長いけれど、有史以前の不可思議な動物が生息してゐた頃まで想像して見ると、まあ大体人から教へられた知識のおかげで、世界の大きな範囲はぼんやりとわかつて参りますが、それよりももつと巨大な到底吾々の想像では許されぬところ、そこには生もなく死もなく永遠に光つてゐる数多の光源だけが存在してゐる空とかと名付けられた所は……とまで思ふとじつ…

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