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お父さんのお寝坊
おとうさんのおねぼう
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「牧野信一全集第一巻」 筑摩書房
2002(平成14)年8月20日
初出「少女 第一二一号(新年号)」時事新報社、1922(大正11)年12月8日
入力者宮元淳一
校正者門田裕志
公開 / 更新2011-06-16 / 2014-09-16
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

「いくら日曜の朝だからつて、もうお起ししなければいけませんわ。もう十時ぢやありませんか。美津子さん、お前お二階に行つてお父さんをお起ししていらつしやい。」
 お母さんにかう云はれると、美津子は直ぐに立ちあがりました。他の用だとかう直ぐには承知しないのですが、お父さんをお起しするといふことが、大好きなのです。別に理由もないんですが、何だか自分が斯うちよつと偉くなつたやうな気がするからなのでせう。
 春風そよ吹く空を見れば――美津子は、そんな唱歌を歌ひながら、トントンと威勢よく梯子段を昇つて行きました。さうして、唐紙を開けると同時に、「お父さん!」と、大きな声で呼びました。お父さんはと見ると、スツポリ頭から布団をかぶつて、恰で亀の子のやうな形をしてグウ/\眠つてゐます。
「お父さん!」と、更にもう一度美津子は呼ばはりました。やつぱり手応へがありません。
「お父さんてば――」と三度目の呼声に、やつとお父さんは、ウーム! と唸つたが、直ぐムニヤムニヤムニヤと呟きながら、一層深く布団の中にもぐり込んでしまひました。
 大へんに空の好く晴れた朝です。空には一点の雲もなく、蒼々と澄み渡つて居ります。金色の陽の光が一ぱいに縁側に充ち溢れて、とても冬の朝とは思へぬ位でした。縁側に面した障子は悉く開け放たれて、清新な朝の香が部屋の隅々まで行きわたつてゐました。
「お父さん! もう十時ですよ。お起きにならなければいけませんわ。」
 それでもお父さんは起きようとはいたしません。たゞ稀にウンとか、スンとか、解らないことを呟くだけです。美津子は少々ぢれツたくなりました。で、お父さんの耳の傍へ口を寄せて、更にもう一度、大きな声で、
「お父さんもう十時ですよ。お起きにならなければいけませんわ。」と、云ひました。
「未だ早いよ。」と、お父さんは夢中でさう云つたかと思ふと、今度は反対の方を向いてグウ/\眠つてしまひました。
 美津子は可笑しくなりました。「そんなにも眠いものかなア、お父さんのくせに――」と思ひましたが、美津子は負けずと直ぐまた反対の側に行つて、今度は両手で揺り動かしました。
「もう少し眠らせて呉れよ。」と、お父さんは、寝言の様な調子でさう云ひながら、また寝がへりをうちました。美津子はちよつと気の毒な気がしましたが、すぐ気を取直して、
「駄目よ/\。もうお起きにならなければいけません。――ね、お父さん、思ひ切つて勢よくお起きになれば、却つて清々しますよ。」と、美津子は出来るだけ優しく、いつか自分がお母さんに云はれた時の通りなことを云ひました。
「頼む、頼む。美津子一生のお願だ。」と、眼を瞑つたまゝ尚も夢中で、お父さんはそんなことを云ひました。
「そんなお願ひ駄目よ。厭だわ、お父さんたら、ふざけて――」
「誰がふざけるもんか!」と、やゝ鋭い声で云ひ放ちました。――何て厭なお父さんだ…

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