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失うた帳面を記憶力で書き復した人
うしのうたちょうめんをきおくりょくでかきもどしたひと
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「日本の名随筆 別巻44 記憶」 作品社
1994(平成6)年10月25日
入力者向山きよみ
校正者小林繁雄
公開 / 更新2011-06-26 / 2014-09-16
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 五年九号四二頁に宮本君が書いた、周防大島願行寺にむかし住んだ、非常に強記な僧の話は、和漢諸方に古来類話が多い。今ほぼその話を添えられた本人どもの時代の新古に順次して、左のごとく列ね挙げる。
「蜀山人は、(中略)伝えていう、かの人江都小田原町辺の魚肆に因みありて往きかいけるが、一日かの家に往きけるおり、店にありける帳を把って、漫に披閲しけれども、その身に無用の物なれば、熟視するというにはあらず、物語などする間に間に、始めより終りまでくりてみたりしが、そのままに掻いやり捨てて気にもとめず。かくて帰り来たりしが、その家祝融氏の怒りに触れて、たちまち灰燼となりぬ。よって蜀山も彼処へゆき、その無事に火を避けしや否をとうに、主答えて、おのおの無事なり、さわれ不慮なる急火にして、家財は大半失いぬ、そはとまれかくもあれ、店にありつる帳を焼きつ。こは浜方より運送の多寡、かつ諸方への出入り勘定、みなことごとく帳に託す。しかればかの帳はわが家産なるを、遽しき騒ぎに紛れ、焼き失いしや弗にみえず。これ身においての大難なりと、眉をひそめて吐息をつけば、蜀山しばしありていうよう、そは例もこの店先にある日用諸雑記の帳なるか、もしそれならばわれ覚えたり、いざいざ書いて得させんとて、新しき帳を開き、ことごとく写し認めて与えにければ、主の男はかつ感じかつ歓びけり、云云」(嘉永三年、中村定保輯『松亭漫筆』二)。
「林道春、(中略)二十五歳の時、江戸に下り、日本橋辺に旅宿せられけるに、本町の呉服屋家城八十郎という者、道春を招き、よりより性理の旨を尋ねければ、道春常に心やすく彼が家に出入りせらる。折から夏のことなるに、道春、家城が家に居ながら、しきりに眠りを催しければ、側にありたる大福帳を引きよせ、枕にして、宰予が楽しみに周公をや夢みられしと思わる。ややあって目をさまし、暮れがたき日を憾みながら、かの帳を披き、端から奥まで一通り繰り返してもとのごとくに収め、暇乞して帰られける。その年の冬不慮に出火ありて、かの家城も類火にあい、難儀の中の小屋掛けへ、道春見舞に来たられ、(中略)まずはおのおの怪我もせず立ち退かるること珍重なり、して財宝は残りしか。八十郎申すよう、家財をやくこと少しも苦には存ぜねど、苦々しきことには、大切なる懸け帳を焼き失い候て、大分の金銀を捨て申したること残念に候という。道春聞いて、その帳とはいかなる物ぞ。家城答えて(中略)当夏私店へ御出での時、取り敢えず枕にして昼寝をなされた大福帳のことで厶ります、(中略)もはやかの帳を失い申す上は、病目に茶を塗ったごとく、座頭の杖に離れしように、便りなく覚え、これからは身代潰し申すより外なく候と、うろうろ涙の悔みを聞いて、道春手をうち、われいつぞや一睡さめての後、かの帳をくり返し、さらさらと一通り披見せしが、その帳の付け自然と心に止まり、今もって忘…

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