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汽船の中の父と子
きせんのなかのちちとこ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 4」 講談社
1977(昭和52)年2月10日
初出「赤い鳥」1924(大正13)年9月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者館野浩美
公開 / 更新2017-09-04 / 2017-08-25
長さの目安約 9 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 古い、小形の汽船に乗って、海の上をどこということなく、東に、西に、さすらいながら、珍しい石や、貝がらなどを探していた父子の二人がありました。
 あるときは、北の寒いところで、名もない小さな島に上がって、珍しい青い石を探したこともあります。また、あるときは、南の熱い太陽の赤々と照らす、真下のところで、赤い石を掘ったこともありました。
 二人は、珍しいものが手にはいると、いろいろな国の都へ、どことはかぎらずに、船の便宜によって上陸しました。そして、にぎやかな街の中を歩いて、それを貴族に売ったり、金持ちに莫大な金で売りつけたり、また商人に譲ったりしたのであります。
 父と子といっても、すべて、父親一人の力でありました。男の子は、まだ、それほど年がいかなくて、ただ、父親のゆくところへは、どこへでもついて歩いてゆくばかりであったからです。
 父親は、気むずかしい顔をして、髪をのばしていました。青い月の光が、水のように美しく、華やかな、にぎやかな街のかわら屋根に流れる夜、その街を歩いて、その日は、珍しい石を高く売りつけたので、とある酒場にはいって、たくさんなごちそうを食べたりしたこともあります。そんなとき、子供は、その店で鳴らしている楽器の音を、どんなにか悲しく思ったでありましょう。また、美しい女らの顔や、唇や、そして、白い歯を光らしながら歌った、その土地土地の古い唄をどんなになつかしく思ったでありましょう。
 しかし、そこにいるのも、けっして、長い間ではありませんでした。二人は、また、小さな汽船に帰らなければならなかったからです。
 汽船は、二人が陸に上がっていない間は、じっと海の上に、真っ黒な顔をして待っていました。長い間、雨や、風に、さらされたので、汽船がそう汚れて、くろっぽく見えることには、不思議がありませんでした。
「おればかりは、いつも海しか、見ることができないのだ。陸へ上がって、にぎやかな、街を見ることも永久にかなわないのか……。」と、汽船は、不平そうな顔つきをして、いっているようでありました。
 父親は、取引がすむと、重そうに金を抱いて、船の中に、子供をつれて帰ってきました。そして、それを金箱の中に、大事にしてしまいました。その箱はがんこに、真っ黒な鉄で造られていました。
 父親が、金貨や、銀貨が、だんだん航海するたびにたまってくるのを、うれしそうにながめながら、
「この金貨は、西の国の金貨だ。この金貨は、東の国の金貨だ。この銀貨は、重い。しかしこちらの銀貨のほうは、もっと目方がある。」といっていますのを、子供は、そばで、ただ黙ったまま見ていました。
「お父さん、そんなに、金貨や、銀貨を、たくさんためて、どうするんですか?」と、子供は父親に向かってききました。
「おまえ、街へいってみれ、おもしろいことがたくさんある。きれいなものが、ありあまるほどある。…

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