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掃除当番
そうじとうばん
作品ID53000
著者槙本 楠郎
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本児童文学大系 三〇巻」 ほるぷ出版
1978(昭和53)年11月30日
初出「教育論叢」1933(昭和8)年7月
入力者菅野朋子
校正者雪森
公開 / 更新2014-07-24 / 2014-09-16
長さの目安約 10 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 びつくりするほど冷たい井戸水を、ザブ/\と二つのバケツに一ぱい汲むと、元気な槇君はそれを両手にさげて、廊下から階段を登つて、トツトと自分の教室へ帰つて来ました。
 すると、だしぬけに、四五人の掃除当番の者が、口々にかう叫びました。
「おい君、五年生のやつらが、僕たちのぞうきんを持つてつちやつたぞ!」
「おれ、ほうきで追つかけたんだが、どうしても返さないんだ――」
「三人はいつて来て、だまつて探してゐたが、『おう、たくさんあるな、一枚かりてくよ』つて、持つてつちやつたんだよ!」
「上級生だつて、なまいきだ! ねえ槇君、おれたちも、しかへしに、何か、かつぱらひに行かう! ごみとりだつて、ほうきだつて、あいつらの帽子だつていゝぢやないか! かうなれア非常時だ――」
「アツハ、『非常時』はすげエや。非常時日本……いや、非常時四男組だア……」
 みんなワイ/\騒ぎ出しました。だまつて窓ガラスを拭いてゐた、女のやうなおとなしい水村君も、窓からおりて来ました。
「ぞうきんは、これつきりだね?」
 槇君はさう云ひながら、落着いて、残つてゐるぞうきんを、床の上に並べて見ました。四つあります。けれど、みんなボロ/\で、中には半分ぐらゐしかないのもあります。
「これぢや駄目だね。」と、槇君は呟きました。「よし、僕が取り返しに行く。こんなぞうきんばかりで拭けるもんか。みんなも、ついて来てくれ。だが、乱暴しちや駄目だぞ。」
「おれ、ほうきもつてかうか?」
「よせ/\!」と、誰かゞ止めました。
「そんなら、ぞうきんならいゝだらう? おれ、こいつで、五年生のやつらの、顔をふいてやるんだ。イザつていふ時にな。」
「さうだア、おれもさうしよう!」
 背の高い、当番長の槇君は、サツサと出て行きました。
 その後へ、四人つゞきました。少し遅れて、また二人、まだ滴のたれるボロぞうきんをさげて、追ひつきました。
 すぐ隣の教室は、四年女子組の教室で、その次が五年男子組の教室です。
 槇君を先頭にする四年男子組の子供たちは、いつもなら、女子組の掃除当番にからかつたりするのですが、今日は見向きもしないで、ドヤ/\と五年男子組の教室へ、おしかけて行きました。
 槇君は、先生の出入口の方から入つて行くと、いきなり、かう云ひました。
「おい、ぞうきんは僕の方でもいるんだ。返してくれ給へ。」
 すると、騒ぎながら掃除してゐた五年男子組の子供たちは、一度に立ち止まりました。そしてポカンと振り向きました。四年生にしてはバカにノツポのやつを先頭に、ズラリと六人並んでゐるのです。ビリつこの二人のさげてゐるボロぞうきんからは、ポタ/\と水がたれてゐます。
「ぞうきんを返し給へ。君たちは、僕たちのぞうきんを盗んだんだ。盗むなんて、よくないぢやないか。返してくれ給へ。」
 槇君がかう云ふと、
「盗みはしないよ。」と、教室の…

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