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親木と若木
おやぎとわかぎ
作品ID53017
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 5」 講談社
1977(昭和52)年3月10日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者雪森
公開 / 更新2013-06-08 / 2014-09-16
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 なんでも、一本の木が大きくなると、その根のところに、小さな芽が生えるものであります。
 孝ちゃんの家の垣根のところに、山吹がしげっていました。ふさふさとして、枝はたわんで黄金色の花をつけていました。日の光は、広々とした庭の面にあふれていましたから、この花の上をも照らしたのであります。花には、みつばちがたかり、暖かな風が、おだやかに接吻していました。
 この山吹の根もとには、新しい芽が、幾本も土を破って頭を出していました。そして、自分たちの頭におおいかかっている、幾つかの枝のすきまから、かすかにもれてくる日の光を受けて、早く、大きく伸びて、枝と枝の間を分けて、自分たちも広い世界に出ようとしたのであります。
 山吹は、子孫のしげることを誇りとしていました。もっと、もっと株が大きくなって、みんな、輝く黄金色の花をつけたら、どんなにみごとなことであろうと思うと、自から、その日の有り様を空想して、うっとりとせずにはいられませんでした。
 けれど、たくさんに頭を出した子孫が、みんな幸福であろうはずがなかったのです。広やかな庭のひなたの方に芽を出したものは、自由に伸びることはできたけれども、反対に、垣根を越して、北の寒い、日蔭に、不幸にも頭を出したものは、どんな憂きめを見たことでしょうか。
 ちょうど、そこには、竹の棒や、朽ちかかった杭のようなものや、割れた煉瓦などが積み重ねられてあって、せっかく、芽を出したけれど、柔らかな頭を、それらの無情な物体にくじかれて、曲がりくねって、わずかに、艶気のない青葉をつけているにすぎませんでした。そして、おそらく、そこに、こうした、不幸な山吹の苗が、存在しているということは、みつばちをはじめ、毎日、そこらへきて、口やかましくおしゃべりをするすずめたちにも、気がつかなければ、また口の端にも上ることはなかったのでした。
 ある日、勇二は、孝ちゃんの家へ遊びにきて、庭へ出て山吹の花をながめながら、垣根の外へまわると、ふとそこに、不幸な苗が、みんなから離れて、生えていることに気がついたのです。
 勇二は、なんとなく、その山吹の苗をかわいそうに思いました。もし、このままにしておいたら、ついには伸びもせずに、枯れてしまうだろうと思いました。
「孝ちゃん、僕に、この山吹の芽を一本おくれよ。」と、勇二は頼んだのであります。
「ああ、たくさん殖えて困るのだから、君の好きなのを一本こいで、持ってゆきたまえ。」と、孝ちゃんはいいました。
「いいえ、僕は、この垣根の外にある、やせて、かわいそうな、これでいいのだ。」
「なぜ、そんな元気のないのを持っていくんだい。枯れるかもしれないよ。」
「だいじょうぶだよ。」
「なかなか、花が咲かないぜ。」
「来年になったら、咲くかもしれない。」
 勇二は、孝ちゃんが、不思議がるのを、自分は、かわいそうに思うところから、てい…

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