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地震の話
じしんのはなし
作品ID53048
著者今村 明恒
文字遣い旧字旧仮名
底本 「星と雲・火山と地震」 日本児童文庫、復刻版、名著普及会
1982(昭和57)年6月20日
入力者しだひろし
校正者仙酔ゑびす
公開 / 更新2012-05-29 / 2014-09-16
長さの目安約 65 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

一、はしがき


 日本は地震國であり、又地震學の開け始めた國である。これは誤りのない事實であるけれども、もし日本は世界中で地震學が最も進んだ國であるなどといふならば、それは聊かうぬぼれの感がある。實際地震學の或方面では、日本の研究が最も進んでゐる點もあるけれども、其他の方面に於ては必ずしもさうでない。其故著者等は地震學を以て世界に誇らうなどとは思つてゐないのみならず、此頃のように、わが國民が繰返し地震に征服せられてみると、寧ろ恥かしいような氣持ちもする。即ち大正十二年の關東大地震に於ては十萬の生命と五十五億圓の財産とを失ひ、二年後但馬の國のけちな地震の爲、四百の人命と三千萬圓の財産とを損し、又二年後の丹後地震によつて三千の死者と一億圓の財産損失とを生じた。そして此等の損失の殆んど全部は地震後の火災に由るものであつて、被害民の努力次第によつては大部分免れ得られるべき損失であつた。然るに事實はさうでなく、あのような悲慘な結果の續發となつたのであるが、これを遠く海外から眺めてみると、日本は恐ろしい地震國である。地震の度毎に大火災を起す國である。外國人は命懸けでないと旅行の出來ない國である。國民はあゝ度々地震火災に惱まされても少しも懲りないものゝようである。地震に因つて命を失ふことをなんとも思つてゐないのかも知れないなどといふ結論を下されないとも限あるまい[#「限あるまい」はママ]。實際これは歐米人の多數が日本の地震に對する觀念である。かく觀察されてみる時、著者の如き斯學の專攻者は非常な恥辱を感ぜざるを得ないのである。勿論この學問の研究が容易に進歩しないのも震災國たるの一因には相違ないが、然しながら地震に對して必要な初歩の知識がわが國民に缺けてゐることが、震災擴大の最大原因であらう。實に著者の如きは、地震學が今日以上に進歩しなくとも、震災の殆んど全部はこれを免れ得る手段があると考へてゐるものゝ一人である。
 著者は少年諸君に向つて、地震學の進んだ知識を紹介しようとするものでない。又たとひ卑近な部分でも、震災防止の目的に直接關係のないものまで論じようとするのでもない。但し震災防止につき、少年諸君[#ルビの「どくしや」はママ]が現在の小國民としても、又他日國民人物の中堅としても自衞上、はた公益上必要缺くべからざる事項を叙述せんとするものである。
[#改ページ]

二、地震學のあらまし


 わが國は地震學發祥の地といはれてゐる。これは文化の進んだ國としては地震に見舞はれる機會の多いからにもよるのであるが、なほ他の一因として明治維新後、わが國の文化開發事業の補助者として招聘した歐米人が、多くは其道に於て、優秀な人達であつたことも數へなければならぬ。事の發端は、明治十三年二月二十二日横濱並にその近郊に於て、煉瓦煙突並に土壁に小破損を生ぜしめた地震にある。この時大學其他の官…

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