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生ける銃架
いけるじゅうか
副題――満洲駐屯軍兵卒に――
――まんしゅうちゅうとんぐんへいそつに――
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「槇村浩詩集」 平和資料館・草の家、飛鳥出版室
2003(平成15)年3月15日
初出「大衆の友 創刊号」1932(昭和7)年2月5日
入力者坂本真一
校正者雪森
公開 / 更新2015-05-22 / 2015-06-21
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

高粱[#「高粱」は底本では「高梁」]の畠を分けて銃架の影はけふも続いて行く
銃架よ、お前はおれの心臓に異様な戦慄を与へる――血のやうな夕日を浴びてお前が黙々と進むとき
お前の影は人間の形を失ひ、お前の姿[#ルビの「すがれ」はママ]は背嚢に隠れ
お前は思想を持たぬたゞ一箇の生ける銃架だ
きのふもけふもおれは進んで行く銃架を見た
列の先頭に立つ日章旗、揚々として肥馬に跨る将軍たち、色蒼め[#「色蒼め」は底本では「色蒼ざめ」]疲れ果てた兵士の群―
おゝこの集団が姿を現はすところ、中国と日本の圧制者が手を握り、犠牲の××(1)は二十二省の土を染めた
(だが経験は中国の民衆を教へた!)
見よ、愚劣な×(2)旗に対して拳を振る子供らを、顔をそむけて罵る女たちを、無言のまゝ反抗の視線を列に灼きつける男たちを!
列はいま奉天の城門をくゞる
――聞け、資本家と利権屋の一隊のあげる歓呼の声を、軍楽隊の吹奏する勝利の由を!
やつら、資本家と将軍は確かに勝った!――だがおれたち、どん底に喘ぐ労働者農民にとつてそれが何の勝利であらう
おれたちの唇は歓呼の声を叫ぶにはあまりに干乾びてゐる
おれたちの胸は凱歌を挙げるには苦し過ぎる
やつらが勝たうと負けようと、中国と日本の兄弟の上に×(3)圧の鞭は層一層高く鳴り
暴×(4)の軛は更に烈しく喰ひ入るのだ!

おれは思ひ出す、銃剣の冷く光る夜の街に
反×(5)の伝単を貼り廻して行つた労働者を
招牌の蔭に身を潜め
軒下を忍び塀を攀ち[#「攀ち」はママ]
大胆に敵の目を掠めてその男は作業を続けた
彼が最後の一枚に取り掛つた時
歩哨の鋭い叫びが彼の耳を衝いた
彼は大急ぎでビラを貼り
素早く横手の小路に身を躍らせた
その時彼は背後に迫る靴音を聞き
ゆくてに燦めく銃剣を見た
彼は地上に倒れ、次々に×(6)き×(7)される銃×(8)の下に、潮の退くやうに全身から脱けて行く力を感じ
おとろへた眼を歩哨の掲げた燈に投げ
裂き捨てられた泥に吸はれた伝単を見詰め
手をかすかに挙げ、唇を慄はし
失はれゆく感覚と懸命に闘ひながら、死に至るまで、守り通した党の名をとぎれ/\に呼んだ
……中、国、共、×(9)、×(10)、萬……

――秋。奉天の街上[#ルビの「かいじやう」はママ]で銃架はひとりの同志を奪ひ去つた
しかし次の日の暮れ方、おれは帰りゆく労働者のすべての拳しの中に握り占められたビラの端を見た電柱の前に、倉庫の横に、風にはためく伝単を見た、同志よ安んぜよ、君が死を以て貼り付けたビラの跡はまだ生々しい。
残された同志はその上へ次々に伝単を貼り廻すであらう

白樺[#ルビの「しらかば」は底本では「しらかは」]と赤楊の重なり合ふ森の茂みに銃架の影はけふも続いて行く
お前の歴史は流×(11)に彩られて来た
かつて亀戸の森に隅田の岸に、また朝鮮に台湾に満州に
お前は同志…

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