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茶碗の曲線
ちゃわんのきょくせん
副題――茶道精進の或る友人に――
――さどうしょうじんのあるゆうじんに――
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「中谷宇吉郎随筆集」 岩波文庫、岩波書店
1988(昭和63)年9月16日
初出「淡交」1951(昭和26)年4月1日
入力者門田裕志
校正者川山隆
公開 / 更新2013-02-15 / 2014-09-16
長さの目安約 10 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 もう二十年以上も昔の話であるが、考古学を専攻していた私の弟が、東大の人類学教室で、土器の研究をしていたことがある。
 その頃は、まだ今日のように、土器の型式による分類などは、ほとんど出来ていなかった。弟はその分類の仕事にとりかかって、何か科学的な分類法がないかと、いろいろ考えていた。
 土器の形は、個々の標本では、もちろんそれぞれ著しく異るが、特定の地域から出る或る時代と推定される土器をたくさん集めて、全体として見ると、その間に共通した一定の型式がある。それによって、何々式という名前が与えられ、大まかな分類がなされていたのである。
 こういう分類の方法は、土器と限らず、いわゆる美術骨董品などの鑑定には、度々用いられているやり方である。たとえば、鍍金仏などを専門家が一眼見て、これは六朝だとか、もう少し旧いとかいうようなことをいうのは、皆この型式を見るわけである。仏像とか、絵とか、道具とかいうものは、形が非常に複雑であり、その上色だの、材質だのが、変化無限であるから、科学の方でやっているような簡単で明瞭な分類というものは到底出来そうもない。その点、土器は形も簡単であり、色や材質の差も少いので、こういう研究目的には、恰好の材料である。
 ここで科学的の分類という言葉の意味を、ちょっと説明しておく必要がある。科学的というのは、普遍的な客観性をもつということである。といっても何もむつかしいことではなく、特定な人でなく、誰にも分るという意味である。
 ものには量と質とがあって、たいていの場合、量の方が質よりも分りよい。二つ茶碗を並べた場合、大小は誰にも分りまた議論の余地もないが、どっちが旧いとか、枯れているとかいうようなこと、即ち質の問題は専門家でないと分らない。土器の型式というようなものも、もちろん質的な話であって、量的ではない。従って専門家でないと分らない。もし専門家の間に異説があれば、いずれが正しいかを決定することは困難なので、いわゆる権威の説に従うより仕方がない。
 それで、こういう場合には科学的な分類を試みるとして、一番本格的なやり方は、何か量的な表わし方、即ち数字か数式かで、いわゆる型式なる「質」を決められないかという研究をしてみることである。壺や茶碗のようなものが一番分りよいのであるが、何となくどっしりとしているとか、素朴な味があるとか、優美な形をしているとかいうのは、壺なり茶碗なりの外形をなしている曲線が、それぞれ何か特定の法則に適うような形をしているからであろう。陶器や磁器では、色とか艶とかいうものも一役買うであろうから、話は少し厄介になるが、土器の場合ならば、一応は形、即ち曲線の性質だけで、何かの法則が出て来そうである。
 弟はこういう見込みで、いろいろな土器についてその形を精密に測り、切断面に相当する曲線をたくさん作っていた。土器の形はみなちがう…

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