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テレビの科学番組
テレビのかがくばんぐみ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「中谷宇吉郎随筆集」 岩波文庫、岩波書店
1988(昭和63)年9月16日
初出「週刊文春」1959(昭和34)年5月4日
入力者門田裕志
校正者川山隆
公開 / 更新2013-04-18 / 2014-09-16
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

コクのない内容 NHKの教育テレビで、毎日曜日の午後、「日曜大学」というシリイズものを、一時間番組として、放送している。
 今の日本は、科学普及とか、科学振興とか、全く馬鹿の一ツおぼえのように、科学、科学といっておれば、それで通る世の中である。日曜大学の方でも、御多分にもれず、科学及び技術関係の番組を、この時間に、主としてとりあげている。主旨はまことに結構なのであるが、褒めてばかりもおられない点もある。
 公共放送としては、こういう番組こそ、一番大切なものである。フランスにも、NHKと似た性格のものがあって、そこでもラジオ大学の放送をしている。これはかなり高級な講義であって、世界各国から、いろいろな学者を集めて、おのおの専門の話をさせている。
 この一月だったか、NHKを通じて、そこから、「雪と氷」という題で、六回連続の放送を頼まれたことがある。フランス語はできないからと断ったら、英語でもよいという。それで英語の録音テープを送っておいた。外国語だと、余裕がでてこないので、どうしても話が堅くなる。けっきょく大学の講義みたようなものになってしまった。
 これは巴里から放送するので、大部分の聴取者にとっては、英語は外国語である。それにこんな堅苦しい話では、ちょっと困るかもしれないと思っていたが、別に駄目だともいってこない。かなり高踏的な性格をもっているようである。
 それに較べるわけではないが、日曜大学と限らず、日本の教育テレビの科学番組は、がいして、内容にこくがない。いろいろな機械や、測器などを並べて、これで何を測るなどといってみても、そういうことで、科学知識を普及させることはできない。
 機械の名前や使い方を教えるのは、セールスマンに任せておけばよいことである。NHKは世界でも類の少い、ぼう大かつ強力な公共放送である。それが教育テレビで、日曜大学などと銘をうっている次第である。セールスマンの役目を果して、それでいばっているわけにはいかない。
 もっともNHKの方でも、その点はよく分っているらしく、地球物理学の連続講義のような、本格的なものも放送している。しかし欲をいえば、基礎科学の各分野において、それぞれ基本的な原理を知らせるようなものが欲しい。それには指示実験(デモンストレーション実験)をして見せるのが、一番よい方法であり、かつこれこそテレビが、その性能を一番よく発揮し得る舞台でもある。
ドン・キホーテの試み 日本では、科学がとかく生活から遊離しがちになる。ここでは二義的なことには触れない。本質的な点をいえば、科学者が研究室でやっている仕事では、普通の人々が、家庭や職場でやっていることと、全く別の技法が使われているように、皆が思い込んでいる。それが科学を心理的に別の世界に追いやる原因の一つである。
 科学者が、実験室でやっていることは、何も特別のことではない…

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