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かぶらずし
かぶらずし
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「中谷宇吉郎随筆集」 岩波文庫、岩波書店
1988(昭和63)年9月16日
入力者門田裕志
校正者川山隆
公開 / 更新2013-03-10 / 2014-09-16
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)
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本文より


 金沢の郷土の漬け物に、かぶらずしというものがある。大きいかぶらを、厚さ一センチくらいに切り、中に切れ目を入れて、その中に塩ブリをはさむ。それを重石を強くしてこうじでつけたもので、非常にうまい漬け物である。
 北陸地方では、すしといえば、たいてい押しずしであって、江戸風の握りずしは、近年になって、はいってきたものである。普通は米の上にマスやサバあるいはイワシを乗せて押したものであるが、米のかわりに、かぶらを使ったものも、やはりすしといったらしい。
 このかぶらずしは、このごろは、市販品になっているが、昔はみな自分の家で漬けたものである。魚を発酵させるので、漬け方と時期との微妙な差で、味がひどくちがう。ひとつうまく行くと、まさに天下の美味となる。百万石の城下町に、いかにもふさわしい漬け物であって、それぞれ自分の家のかぶらずしを、自慢にしたものである。
 こういうすしが、いつごろからあったものかわからないが、芭蕉の『猿蓑』に、どうもこれではないかと思われるものが顔を出している。
 有名な「灰汁桶」の連句の中に、去来の
又も大事の鮓を取出す
という句がある。野水の「うそつきに自慢いはせて遊ぶらん」につけたもので、この鮓は、かぶらずしまたはそれに類似のものではないかと思う。
 露伴先生の評釈では、鮒の鮓か鰆の鮓となっているが、「又も」と「大事の」が、相当長期間の保存を意味するようにみえる。そうするとかぶらずしの方が、ぴったりする。昔、寺田先生にこの話をしたら、「そうかもしれんな」といっておられた。先生もかぶらずしが好きであった。



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