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抒情小曲集
じょじょうしょうきょくしゅう
作品ID53241
副題04 抒情小曲集
04 じょじょうしょうきょくしゅう
著者室生 犀星
文字遣い新字旧仮名
底本 「抒情小曲集・愛の詩集」 講談社文芸文庫、講談社
1995(平成7)年11月10日
入力者田村和義
校正者高柳典子
公開 / 更新2013-01-01 / 2018-03-23
長さの目安約 32 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

序曲


芽がつつ立つ
ナイフのやうな芽が
たつた一本
すつきりと蒼空につつ立つ




抒情詩の精神には音楽が有つ微妙な恍惚と情熱とがこもつてゐて人心に囁く。よい音楽をきいたあとの何物にも経験されない優和と嘆賞との瞬間。ただちに自己を善良なる人間の特質に導くところの愛。誰もみな善い美しいものを見たときに自分もまた善くならなければならないと考へる貴重な反省。最も秀れた精神に根ざしたものは人心の内奥から涙を誘ひ洗ひ清めるのである。
いとけなかりし日のおもひでに




室生君。
 時は過ぎた。『抒情小曲集』出版の通知を受取つて、私は、今更ながら過ぎ去つた日の若い君の姿が思ひ出される。初めて会つた頃の君は寂しさうであつた、苦しさうであつた、悲しさうであつた。初めて君の詩に接した時、私はその声の清清しさに、初めて湧きいでた同じ泉の水の鮮かさと歓ばしさとを痛切に感じた。君はまた自然の儘で、稚い、それでも銀の柔毛を持つた栗の若葉のやうに真純な、感傷家であつた。それは強い特殊の真実と自信と正確さを特つた若葉だ。その栗の木は日を追うて完全な樹木の姿となつた。日を追うて君自身本然の愛と啼泣と情念の発露とが激しくなつた。かう云つては悪いかも知れぬが、私は『愛の詩集』よりも此の『抒情小曲集』に、より深い純正を感じ愛着を感じ、追憶の快味をも感ずる。而して君の是等の小曲を初めて発見して少からぬ驚異にうたれた既往の私自身の姿さへ思ひ出す。君も私も既に華華しかつた青春は過ぎて了つた。憶ふと今昔の感に堪へぬ。
 改めて云ふ。今度の小曲集こそ私の待ちに待つたものであつた。私は真に君の歓びを自分の歓びとして一日も早くその上梓の日を鶴首して待つ。
 願くばわが室生犀星に再び光栄あれ。
八月十四日
小田原にて
北原白秋



抒情詩信条

(1) 汝の瞳孔いま微かなる運動を為す。空現はれたり。瞳孔全く開きつくしたる時汝は甚しく羽ばたきを為す。
(2) 汝は多くの人間の期待せるときに生れたることを信ず。願くば汝の上に真摯なるものの数個の批評をもつて汝の精神の糧をおくられむことを祈れ。
(3) 過ぎし日の愛人をおもふこと真に雪の下の若草を思ふに似たりとつげよ。
(4) 詩はわれにとつて永遠の宗教なり。
(5) われ登らんとするとき崖より血しほ流れたり。

抒情詩信条

(1) 詩より詩作の瞬間を愛す。
(2) 祈れば樹の上の果実かつと鳴りて落つ。祈れば青きもの紅くなり形無きもの顕はる。
(3) 瞳と瞳とを合掌す。
(4) 山は静止す。そのさまざまなるものに富み胎めるかを見よ。真に生けるものの静けさを聴けよ。
(5) 爾のわれの接吻をうける時つねにつねに爾の輝くを見たり。





 私にとつて限りなくなつかしく思はれるは、この集にをさめられた室生の抒情小曲である。彼の過去に発表したすべての詩篇の中で…

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