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月天讃歌(擬古調)
がってんさんか(ぎこちょう)
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「新修宮沢賢治全集 第六巻」 筑摩書房
1980(昭和55)年2月15日
入力者junk
校正者土屋隆
公開 / 更新2011-07-09 / 2014-09-16
長さの目安約 1 ページ(500字/頁で計算)
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本文より


兜の尾根のうしろより
月天ちらとのぞきたまへり

月天子ほのかにのぞみたまへども
野の雪いまだ暮れやらず
しばし山はにたゆたひおはす

決然として月天子
山をいでたち給ひつゝ
その横雲の黒雲の
さだめの席に入りませりけり

月天子まことはいまだ出でまさず
そはみひかりの異りて
赤きといとど歪みませると

月天子み丈のなかば黒雲に
うづもれまして笑み給ひけり

なめげにも人々高くもの云ひつゝ
ことなく仰ぎまつりし故
月天子また山に入ります

   兜の尾根のうしろより
   さも月天子
   ふたゝびのぞみ出でたまふなり

月天子こたびはそらをうちすぐる
氷雲のひらに座しまして
無生を観じたまふさまなり

月天子氷雲を深く入りませど
空華は青く降りしきりけり

月天子すでに氷雲を出でまして
雲あたふたとはせ去れば
いまは怨親平等の
ひかりを野にぞながしたまへり



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