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月天讃歌(擬古調)
がってんさんか(ぎこちょう) |
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作品ID | 53382 |
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著者 | 宮沢 賢治 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「新修宮沢賢治全集 第六巻」 筑摩書房 1980(昭和55)年2月15日 |
入力者 | junk |
校正者 | 土屋隆 |
公開 / 更新 | 2011-07-09 / 2014-09-16 |
長さの目安 | 約 1 ページ(500字/頁で計算) |
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兜の尾根のうしろより
月天ちらとのぞきたまへり
月天子ほのかにのぞみたまへども
野の雪いまだ暮れやらず
しばし山はにたゆたひおはす
決然として月天子
山をいでたち給ひつゝ
その横雲の黒雲の
さだめの席に入りませりけり
月天子まことはいまだ出でまさず
そはみひかりの異りて
赤きといとど歪みませると
月天子み丈のなかば黒雲に
うづもれまして笑み給ひけり
なめげにも人々高くもの云ひつゝ
ことなく仰ぎまつりし故
月天子また山に入ります
兜の尾根のうしろより
さも月天子
ふたゝびのぞみ出でたまふなり
月天子こたびはそらをうちすぐる
氷雲のひらに座しまして
無生を観じたまふさまなり
月天子氷雲を深く入りませど
空華は青く降りしきりけり
月天子すでに氷雲を出でまして
雲あたふたとはせ去れば
いまは怨親平等の
ひかりを野にぞながしたまへり