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〔せなうち痛み息熱く〕
〔せなうちいたみいきあつく〕
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「新修宮沢賢治全集 第六巻」 筑摩書房
1980(昭和55)年2月15日
入力者junk
校正者土屋隆
公開 / 更新2011-07-30 / 2014-09-16
長さの目安約 1 ページ(500字/頁で計算)
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本文より


せなうち痛み息熱く
待合室をわが得るや
白き羽せし淫れめの
おごりてまなこうちつむり
かなためぐれるベンチには
かつて獅子とも虎とも呼ばれ
いま歯を謝せし村長の
頬明き孫の学生を
侍童のさまに従へて
手袋の手をかさねつゝ
いとつゝましく汽車待てる
外の面俥の往来して
雪もさびしくよごれたる
二月の末のくれちかみ
十貫二十五銭にて
いかんぞ工場立たんなど
そのかみのシャツそのかみの
外套を着て物思ふは
こゝろ形をおしなべて
今日落魄のはてなれや
とは云へなんぞ人人の
なかより来り炉に立てば
遠き海見るさまなして
ひとみやさしくうるめるや
ロイドめがねにはし折りて
丈なすせなの荷をおろし
しばしさびしくつぶやける
その人なにの商人ぞ
はた軍服に剣欠きて
みふゆはややにうら寒き
黄なるりんごの一籠と
布のかばんをたづさへし
この人なにの司ぞや
見よかの美しき淫れめの
いまはかなげにめひらける
その瞳くらくよどみつゝ
かすかに肩のもだゆるは
あはれたまゆらひらめきて
朽ちなんいのちかしこにも
われとひとしくうちなやみ
さびしく汽車を待つなるを



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