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〔ひとひははかなくことばをくだし〕
〔ひとひははかなくことばをくだし〕
作品ID53432
著者宮沢 賢治
文字遣い新字旧仮名
底本 「新修宮沢賢治全集 第六巻」 筑摩書房
1980(昭和55)年2月15日
入力者junk
校正者土屋隆
公開 / 更新2011-07-30 / 2014-09-16
長さの目安約 1 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


ひとひははかなくことばをくだし
ゆふべはいづちの組合にても
一車を送らんすべなどおもふ
さこそはこゝろのうらぶれぬると
たそがれさびしく車窓によれば
外の面は磐井の沖積層を
草火のけむりぞ青みてながる

屈撓余りに大なるときは
挫折の域にも至りぬべきを
いままた怪しくせなうち熱り
胸さへ痛むはかつての病
ふたゝび来しやとひそかに経れば
芽ばえぬ柳と残りの雪の
なかばはいとしくなかばはかなし
あるいは二列の波ともおぼえ
さらには二列の雲とも見ゆる
山なみへだてしかしこの峡に
なほかもモートルとゞろにひゞき
はがねのもろ歯の石噛むま下
そこにてひとびとあしたのごとく
けじろき石粉をうち浴ぶらんを

あしたはいづこの店にも行きて
一車をすゝめんすべをしおもふ
かはたれはかなく車窓によれば
野の面かしこははや霧なく
雲のみ平らに山地に垂るゝ



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