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作品ID53452
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 5」 講談社
1977(昭和52)年3月10日
初出「赤い鳥」1925(大正14)年1月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者雪森
公開 / 更新2013-05-09 / 2014-09-16
長さの目安約 10 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 小学校時分の話であります。
 正雄の組へ、ある日のこと知らない女の子がはいってきました。
「みなさん、今日から、この方がお仲間になられましたから、仲よくしてあげてください。」と、先生はいわれました。
 知らない人がはいってくることは、みんなにも珍しさを感じさせました。正雄ばかりではありません。他国からきた人に対しては、なんとなくすこしの間ははばかるような、それでいて早く親しくなって、話してみたいような気持ちがしたのであります。
 それほど、他国の人のだれか、知らない遠い国からきた人だという、一種の憧れ心をそそったのでした。はじめの二、三日は、その女の子に対して、べつに親しくしたものもなかったが、また、悪口をいうようなものもありませんでした。
 だんだん日がたつと、こんどは反対に、独りぼっちの女の子を、みんなして、悪口をいったり、わざと仲間はずれにしたりして、おもしろがったのでした。その女の子の姓は、水野といいましたが、顔つきが、どこかきつねに似ていましたところから、だれいうとなく「きつね」というあだ名にしてしまいました。
 休みの遊ぶ時間になると、みんなは、女の子を取り巻いて、「きつね、きつね。」といって、はやしたてました。
 その女の子は、負けぎらいな、しっかりした子でしたけれど、相手が多数なので、どうすることもできませんでした。それに、知らない土地の学校にはいったことですから、小さくなって、こごんで黙っていましたが、ついにたまらなくなって、泣き出してしまいました。しかし、時間になって、教室へはいる時分には、いつものごとく泣きやんでいましたために、先生は、ちっともそのことを知りませんでした。
 ある日のこと、正雄の家へ、知らないおばさんがはいってきました。
「私の家の娘とお坊ちゃんとは、学校で同じ組だそうでございます。それで、今日は、おねがいがあって上がりました。娘が、毎日、学校で、きつね、きつねといわれますそうで、学校へゆくのをいやがって困りますが、どうかお坊ちゃんにお願いして、みんながそんなことをいわないようにしていただきたいものです……。」と、頼みました。
 正雄の家と水野の家とは、あまりそう遠くなかったので、それで、彼女の母親がきたものと思われます。
 学校では、正雄も、いっしょになって悪口をいった一人なのでした。なかには、まったくそんな悪口などをいわずに、黙っていた生徒もありました。いま、正雄は、自分の行為に対して、気恥ずかしさを感ぜずにはいられなかったのです。
「それは、お気の毒のことでございます。うちの正雄に、あとからよくいいきかせますから……。」と正雄のお母さんは、水野のおばさんに答えられました。
 女の子の母親が帰った後で、正雄は、お母さんから、弱いものをみんなしていじめることは卑怯なことだといわれて、正雄は、真に悪かったと感じました。…

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