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いいおじいさんの話
いいおじいさんのはなし
作品ID53453
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 5」 講談社
1977(昭和52)年3月10日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者雪森
公開 / 更新2013-05-29 / 2014-09-16
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 美しい翼がある天使が、貧しげな家の前に立って、心配そうな顔つきをして、しきりと内のようすを知ろうとしていました。
 外には寒い風が吹いています。星がきらきらと枯れた林のいただきに輝いて、あたりは一面に真っ白に霜が降りていました。天使は見るもいたいたしげに、素跣で霜柱を踏んでいたのであります。
 天使は自分の身の寒いことなどは忘れて、ただこの貧しげな家のようすがどんなであろうということを、知りたいと思っているふうに見えました。家の内にはうす暗い燈火がついて、しんとしていました。まだ眠る時分でもないのに話し声もしなければ、笑い声もしなかったのであります。
 このとき、ちょうど同じ村に住んでいる、人のいいおじいさんが、山の小舎でおそくなるまで働いて、そこを通りかかったのであります。そして、おじいさんは天使を見ると、そばへいってどうしたのかと問うたのであります。
 天使はおじいさんを見上げて、
「近いうちに、この家へ天から子供を一人よこそうと思うのですが、心配でなりません。この寒いのに、子供がどうしてつらいめをしないものでもないと思うと、なんとなく案じられて、私はこの家のようすを見にやってきたのであります。それだのにこの家はしんとして、笑い声ひとつしないので、どうしたのであろうと考えていたのであります。」といいました。
 おじいさんは天使のいうことを聞いて、もっともだといわぬばかりにうなずきました。
「それにちがいありません。俺がよく亭主の心持ちを聞いてみます……。」と、おじいさんは申しました。
 天使は木枯らしの吹く中を、いずこへとなく歩いて去りました。その後を見送って、おじいさんは、よくこのときの神さまのお心持ちがわかったのでした。
「ほんとうにこの家の亭主にも困ったものだ。女房がもうじきお産をするというに、働いた金はみんな酒を飲んでしまう……。なんということだ。今夜もあの居酒屋に酔いつぶれているにちがいない……。」と、おじいさんは村はずれの居酒屋をさして、疲れている足を運びました。
 いってみると、はたして亭主は、そこで酔っているのでした。おじいさんは意見をしてやろうと思いましたが、このようすではなにをいっても、いまはこの男の耳にはいらないと思いましたので、明日酔いのさめているときにするつもりで、家にもどったのであります。
 その亭主は大工でありました。あくる日、仕事場で彼は休みの時間に火を焚いてあたっていました。
 いい天気でありました。冬ではあったが日があたたかに当たると、小鳥が枯れた木立にきて鳴いています。青い煙は、さびしくなった圃の上をはって、林の中へとただよってゆきました。彼はぼんやりと、なにか頭の中で考えているらしく見えたのであります。
「こんにちは。」といって、おじいさんは若者のそばへ近づきました。
 若者はだれかと思って見ると、人のよいおじい…

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