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銀のつえ
ぎんのつえ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 5」 講談社
1977(昭和52)年3月10日
初出「童話」1924(大正13)年11月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者江村秀之
公開 / 更新2014-02-18 / 2014-09-16
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 あるところに、いつも遊び歩いている男がありました。兄さんや、妹は、いくたび彼に、仕事をはげむようにいったかしれません。けれど、それには耳を傾けず、街のカフェーへいって、外国の酒を飲んだり、紅茶を喫したりして、終日ぼんやりと暮らすことが多かったのでした。
 彼は、そこで蓄音機の音楽をきいたり、また、あるときは劇場へオペラを見にいったり、おもしろく暮らしていたのでありました。
 ある日のこと、彼は、テーブルの上に、いくつもコップを並べて、いい気持ちに酔ってしまったのです。そして、コップの中にはいった、緑・青・赤、いろいろの酒の色に、ぼんやり見とれていますと、うとうとと居眠りをしたのでした。
 もう、いつのまにか、日は、とっぷりと暮れてしまいました。
「ああ、もう帰らなければならない。」と、彼はいって、そのカフェーから外に出たのでした。彼の足は、ふらふらしていました。そして、まだ、耳には、けさしがたまで聞いていた、いい音楽のしらべがついているようでありました。
 夜の空は、ぬぐったガラスのように、うるおいを含んでいました。月がまんまるく空に上がって、あたりの建物や、また森影などが、浮き出たように見られたのであります。
 彼は、さびしい、広い往来を歩いてきますと、ふいに、そこへわき出たように、一人のおじいさんがあらわれました。そのおじいさんは、白いひげをはやしていました。そして、手に光るつえを持っていました。そのつえは、銀で造られたように思われます。
 おじいさんは、彼の歩いている行く手に立って、道をふさぎました。彼は、頭を上げて、おじいさんを黙ってながめたのです。
 おじいさんは、なにか、ものをいいたげな顔をしながら、しばらく、口をつぐんで彼のようすを見守っていました。彼は、このおじいさんを見ると、なんとなく体じゅうが、ぞっとして、身の毛がよだちました。おじいさんの目は、氷のように冷たい光を放って、刺すように鋭かったからであります。
 それよりも、彼は、このおじいさんを、かつてどこかで見たことがあるような気がしました。子供の時分にきいたお伽噺の中に出てきたおじいさんのようにも、また、なにかの本に描いてあった絵の中のおじいさんのようにも、また、彼が音楽を聞いている時分に、頭の中で空想したおじいさんのようにも、……であったかもしれなかったのでありました。
「おまえは、私を見たことがない。けれど、空想したことはあったはずだ。おまえは私をなんと思うのだ。」と、おじいさんは、重々しい口調でいいました。
 彼は、答えることを知らずに、うなだれていました。
「おまえは、私が思うようにしなければならないだろう……。おまえは、まだ年が若いのに、遊ぶことしか考えていない。そして、いくら、いましめるものがあっても、おまえは、それに対して耳をかさなかった。」と、おじいさんは、いいました…

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