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カラカラ鳴る海
カラカラなるうみ
作品ID53480
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 5」 講談社
1977(昭和52)年3月10日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者江村秀之
公開 / 更新2014-02-18 / 2014-09-16
長さの目安約 12 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 この港は山の陰になっていましたから、穏やかな、まことにいい港でありました。平常はもとより、たとえ天気のよくないような日であっても、この港の中だけはあまり波も高く立たず、ここにさえ逃れれば安心というので、たくさんな船がみんなこの港の内に集まってきたのであります。
 ある日のこと、沖の方がたいへんに荒れたことがありました。沖を航海していたいろいろな船は、みんなこの港を目がけていっしょうけんめいにはいってきました。港の内は諸国の船々でいっぱいになりました。
 赤い船や、白い船や、黒い船や檣の三本あるもの、また二本あるもの、長い船やあまり長くないのや、いろいろありました。また旗を立てている船にも、三角の旗や四角の旗や、いくつも旗を立てているのや、ただ一つぎりのやさまざまでありました。また煙突から黒い煙を上げているのもあれば帆船もありまして、それは見るだけでも海の上はにぎやかでありました。
 港の人々はみんな海岸に出てながめていました。その中には老人もあれば子供もありました。若者もあれば娘もありました。また子供を負っている母親もあれば、またお嫁さんになったばかりの、髪を美しく結った若い女もありました。
 老人はみんなを振り返りながら、
「私は、もう幾十年の昔から、この港の内で朝晩送ってきたものだ。この港にはいってくるような船で知らない船は一つもない。たいていの船はみな見覚えがあるばかりでなしに、私よりみんなずっと船の年も若いものばかりだ。古くて今から二十年と上に出る船はあるまい。私の若かったころの船は、もはやたいてい年を取ってしまって、長い航海の役にはたたなくなったとみえる。そしていつとなしにこの港へもその姿を見せなくなってしまった。ごく若いのはやっと半年から一年、二年というようなのが、この中にまじっている。この港へはいってくるほどの船で私の顔を知らないものはない。みんなきっと一度は私にあいさつをして水をいれるなり石炭を積むなりするにきまっている。私はまたその船をよく覚えている。この船はどこの国の船だかということをよく知っている。沖が荒れているので、このとおりみんなこの港にはいってきたのだ。おまえたちもなにかと、頼まれたりしんせつに世話をしてやるがいい。お天気になるまでは、みんなこの港の内に滞在していることだろうから……。」と、老人はいいました。
 若者たちのうちでは、朝のうちから艀に乗って港の内をこぎまわっていました。なにか変わったことがないか? こう知らない他国の船がたくさん集まっているのだから、まちがいが起こってはならないというのでありました。
 若者たちは、たくさんな船の間をこぎまわっていますと、この港へ上げるために小舟へ荷をおろしている船もありました。またこの港から貨物を積んでゆくために、小舟で荷を運んでいる船もありました。また船の甲板を洗っているのや、港…

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