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煤掃
すすはき
作品ID53545
著者萩原 朔太郎
文字遣い旧字旧仮名
底本 「萩原朔太郎全集 第三卷」 筑摩書房
1977(昭和52)年5月30日
入力者kompass
校正者小林繁雄
公開 / 更新2011-08-02 / 2018-12-18
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


井桁古びた天井に
鼠の夢を驚かして
今朝年越しの煤拂ひ、
主人七兵衞いそいそと
店の小者を引具して
事に堪ふべく見えにけり。

さて若衆のいでたちや
奴冠りに筒袖の
半纏すがた意氣なるに
帶ぶや棕梠の木竹箒、
事あり顏に見交して
物物しくも構へたり。

お花、梅吉、喜三郎
ことし十五の小性とて
娘お蝶がませぶりを
さげすみしたる樣もなく
家代代の重寶を
そつと小縁に運ぶ哉。

要所、要所の手くばりも
あらましここにすみぬれば
手代が下知の一聲に
家臺をゆする物音や
たまたま晝の閑寂に
庭の椿の落つる頃。

木遺男の勇者等も
仕事師ばらの援軍も
いま力戰の眞最中や
たち上りたる、もうぢんの
中に交りて一しきり
陣鼓ときめく凄まじさ。

煤の埃の中にして
捨松ここに思ふ樣
老店の主人三代の
暖簾をくぐる町人は
幾度同じ夢を見て
繰り返したる榮落に
街の繁華は見たるなり。

耳を聾する亂調に
入興ありたる擧動や
お竹つらつら思ふ樣
こは夕暮を酒にして
主人の笑を見んと也
忠義ぶりなる店の子が
賢かりける可笑しさよ。

一重筵の上にして
蒔繪の盆や草雙紙
さては廚の煤鍋が
入り亂れたる狂態を
水干やれし古雛の
こは狼藉ととがめずや。

庭狹きまでに散り亂れ
さしも竝びし家財等の
一つ一つに處えて
二度もとの店の中
帳場格子の間より
手習雙紙見る頃を。

宵の酒宴の可笑しさよ
娘が運ぶ瓶子より
もるる灯影にかしこまる
左右の破顏を反り見て
七兵衞獨り忻忻たり。



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