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ゆく春
ゆくはる
作品ID53546
著者萩原 朔太郎
文字遣い旧字旧仮名
底本 「萩原朔太郎全集 第三卷」 筑摩書房
1977(昭和52)年5月30日
入力者kompass
校正者小林繁雄
公開 / 更新2011-08-02 / 2018-12-18
長さの目安約 1 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


おきつ邊かつ鳴る海青なぎ
今手に動ずる胸をおせば
哀愁ことごと浮び出でて
たぎつ瀬涙の八千尋沼

ああ世は神祕の影にみちて
興ある歌もつ子等もあるに
何をか若きに眉根ひそめ
執着泣くべくえ堪へんや

例へば人あり花に醉ひて
秋雲流るる夕づつに
樂觀すぎしを思ふ如く
足ぶみせんなき煩ひかや

  信なき一人に戀しさで
  今年もさびしう春は行きぬ



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