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宿酔
しゅくすい
作品ID53550
著者萩原 朔太郎
文字遣い旧字旧仮名
底本 「萩原朔太郎全集 第三卷」 筑摩書房
1977(昭和52)年5月30日
入力者kompass
校正者小林繁雄
公開 / 更新2011-08-02 / 2018-12-18
長さの目安約 1 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


堪へがたき惡寒おぼえて
ふとめざむれば室内の
壁わたる鈍き光や
障子を照らす光線の
やや色づきて言ひ知らず
ものうきけしき
物の香のただよふ

宿醉の胸苦し
腦は鉛の重たさに
えたへず喉は
ひしひしとかわき迫り
口内のねばり酒の香
くるめくにがき嘔づく思

そぞろにもけだものの
かつゑし心
獰惡のふるまひを
思ひでて怖れわななく

下卑たる女の物言ひざま
はた酌人の低き鼻
どすぐろき頬の肉
追はんとすれど執拗の
まぼろしは醜かり

しかすがに昨宵の現に
狂ひしよただ接吻のえまほしく
肉ふるはせて抱きしは
我が手なり、脣に臭ぞ殘る
放埒の慾心の
あさましく汚らはし

ああ悔恨は死を迫る
つと起き出でてよろよろと
たんすを探る闇の中
しかはあれ共ピストルを
投げやりてをののきぬ
怖れぬ床に身を臥して

そのたまゆらに狂ほしく
稚子のやうにも泣き入りぬ
さはしかすがに事もなく
夜の明けたるを悦びて
感謝の手をば合せぬる。



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