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よき祖母上に
よきそぼうえに
著者
文字遣い旧字旧仮名
底本 「萩原朔太郎全集 第三卷」 筑摩書房
1977(昭和52)年5月30日
入力者kompass
校正者小林繁雄
公開 / 更新2011-08-31 / 2014-09-16
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)
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本文より


かの家の庭にさく柘榴の花、
あかるい日光の中にふるへる空氣のさびしみ、
年老いたる祖母上よ。
そこのじようろにて植木の苗に水をやり給へ、
そこにあるどの草木にも親愛の言葉をかけておやりなさい、
私は前栽のかげにたたずむ、
ちひさなぼけた犬小舍をみる、
かたむきかかつた木製の長椅子をみる、
ああ これら日光の中にちらばふ、もろもろの植物、諸道具、壁土、窓、物置小舍の類、
あかるくして寂しみある中庭の柘榴の花。
祖母上よ、
自然に息づくものの心に手をふれて、
あなたの遠い昔の夢をよび覺してください、
私はをさない子供で、
私の生活は小鳥のやうにいぢらしかつた、
祖母上よ、
なんといふやすらかさで、あなたはあなたの家に眠つてゐることか、
いつもあなたの心にうかぶものは、
をさなくいとけなき私の幸福、
あなたの遠いたましひの故郷で、
よめな、つくしの莖をかむ私のあかいくちびるです。
ああ いくとせもいくとせも前に忘れられたる人生の古い幻像です。
墓場の下の祖母上よ、
今日はまた力なき私の心によみがへり、
私の昔の庭にきて、茂れる青草に水をかけてやつてください、
ああ 古く乾からびた木製の椅子、
庭の隅にかたむける犬小舍、赤い柘榴の花、
祖母上よ、
なにゆゑに、なにゆゑに、かくも私の心は悲しいのか、
このさめざめとしてはてしなき冬の日のいまはしさ、おそろしさ、せつなさ、寂しさを、
墓場の下の祖母上よ。



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