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紫色の感情にて
むらさきいろのかんじょうにて
作品ID53644
著者萩原 朔太郎
文字遣い旧字旧仮名
底本 「萩原朔太郎全集 第三卷」 筑摩書房
1977(昭和52)年5月30日
入力者kompass
校正者小林繁雄
公開 / 更新2011-08-31 / 2018-12-18
長さの目安約 1 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


ああその燃えあがる熱を感じてゐる
この熱の皮膚を
しばしば貴女にささげる憂鬱の情熱を
ただ可愛ゆきひとつの菫の花を
貴女の白く柔らかな肌に押しあてたまへ
ここにはまた物言はぬ憂愁の浪
紫をもて染めぬいた夢の草原
ああ耐へがたい病熱の戀びとよ

戀びとよ
今日の日もはや暮れるとき
私は貴女の家を音づれその黒い扉の影に接吻しよう
しほしほと泣く心の奧深く
貴女はその惠をたれ
慈愛をもて久遠の道を聽かせ給ふか
貴女は尊き婦人 私の聖母
苦しき苦しき愛憐の祈りをきく人

この可愛ゆきひとつの菫の花を
ただ微かに貴女はほほ笑み
貴女は微かにかぐ 恐ろしい絶望の底の神祕を
人間の虚無の苦惱を 貴女は一人知る
貴女は一人知る
ああ この暗い紫の色の感情を
紫の色の、げに吐息深き私の病熱の戀びとよ。貴女は。



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