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記憶
きおく
作品ID53650
著者萩原 朔太郎
文字遣い旧字旧仮名
底本 「萩原朔太郎全集 第三卷」 筑摩書房
1977(昭和52)年5月30日
入力者kompass
校正者小林繁雄
公開 / 更新2011-08-31 / 2018-12-18
長さの目安約 1 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


記憶をたとへてみれば
記憶は雪のふるやうなもので
しづかに生活の過去につもるうれしさ。

記憶は見知らぬ波止場をあるいて
にぎやかな夜霧の海に
ぽうぽうと鳴る汽笛をきいた。

記憶はほの白む汽車の窓に
わびしい東雲をながめるやうで
過ぎさる生活の景色のはてを
ほのかに消えてゆく月のやうだ。

記憶は雪のふる都會の夜に
しづかな建築の家根を這ひまはる
さびしい青猫の影の影
記憶は分身のやうなものだ。



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