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年中行事覚書
ねんじゅうぎょうじおぼえがき
作品ID53812
著者柳田 国男
文字遣い新字新仮名
底本 「年中行事覚書」 講談社学術文庫、講談社
1977(昭和52)年3月10日
入力者Nana ohbe
校正者川山隆
公開 / 更新2013-05-19 / 2017-08-23
長さの目安約 273 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

著者の言葉



 日本の年中行事が、近頃再び内外人の注意をひくようになったことは事実だが、その興味の中心というべきものが、これからどの方角へ向おうとしているのか、久しくこういう問題に携わっている者には、かえって見当をつけることがむつかしい。しかし少なくとも子供に言って聴かせるように、これは昔からこうするものなのだと、説いただけでは話にもならぬし、またこのごろのジャーナリズムの如く、正月が来れば門松の由来、三月が来れば雛祭の根原などと、きまりきったことを毎年くりかえしていたのでは、観光団の通弁にはなっても、考える人の役には立たぬだろう。
 そこで私は一つの方針として、今まで私たちのまだ知らずにいたことが多いということと、誰もが気をつけて見ておこうとせぬうちに、消えてなくなろうとしている年中行事が、幾らもあるということを説くのに力を入れた。今ならばまだいろいろの事実は残っていて、なるほどそうだったということも出来るし、またどういうわけでこうなのだろうと、疑って見ることも出来る。共同の疑いがあれば、それに答えようとする研究者も必ず生まれるだろう。自分がまだはっきりと答えられないからといって、問題までをしまっておくのはよくないことだと思う。
 歳時習俗語彙という書物は、将来問題になりそうな年中行事の事実を、手の届く限り寄せ集めたもので、比較研究には都合のよい参考書だが、すでに絶版になって古本でも容易には手に入らない。どうかして早く増補改訂を加えた第二版を出したいと、民俗学研究所の人々は苦慮している。絵で説明がつくと、話はたしかに面白くまたわかりやすくなるのだが、それも季節があるために、よいものをたくさん集めて行くことはむつかしい。
 武田理学博士の農村年中行事には、結構な写真がたくさんに出ているが、ちょうどこの本とは反対に、主として正月中の慣習に力が入れてあるので、こちらへは借りて来ることが出来なかった。しかしあの本は精確な注意深い良い記述である。これもなかなか手に入りにくいこととは思うが、もし図書館か何かで読むことが出来たならば、諸君の年中行事に対する興味は、また一段と深まるであろう。

昭和三十年八月
柳田國男
[#改丁]


年中行事




民間の年中行事

 年中行事という言葉は、千年も前から日本には行われているが、永い間には少しずつ、その心持がかわり、また私たちの知りたいと思うこともちがって来た。この点に最初から注意をしてかかると、話の面白みはいちだんと加わるのみならず、人とその生活を理解する力が、これによって次第に養われるであろう。史学が世間で騒ぐような、そんなめんどうな学問でないということを実験するためにも、これはちょうどころあいな、また楽しい問題ではないかと思う。
 今日お互いが知りたいという年中行事は、いつのころからまたどういうわけで、こうした…

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