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敗れて帰る俺達
やぶれてかえるおれたち
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「日本プロレタリア文学集・38 プロレタリア詩集(一)」 新日本出版社
1987(昭和62)年5月25日
初出「戦旗」1929(昭和4)年3月号
入力者坂本真一
校正者雪森
公開 / 更新2015-12-16 / 2015-09-01
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

涙は頬っぺたで乾いた
怒りは胃の底によどんだ
にがいにがい空っぽの胃の底に。
俺達は負けた、おお負けてしもうた。

俺達は負けた!
おお此の歩いて帰る足の重さよ。
憶えて置こうぞ、此の足の重さ
聞いて呉れよ、しょびいて行かれた伜よ
冷たい監房の壁の側でな
うなだれて帰る親父の足音をよ。
お前のおふくろが咳に攻められて寝てる
暗い家まで半里だ。
青い空に赤い旗のビラビラなびく
モスコー迄は五千里だ。
拳の指からにじみ出る血を
この焼ける歯で噛みながら帰るぞ!

  痛みうずく節々に

それだと言って、兄弟!
俺達のガン張りがたりなかったのか?
俺達の胃の腑が腕っ節よりも弱かったか?
俺達のピケが手ぬるかったのか?
嘘をつけ!
第二坑の奴等も第三坑の奴等も
しきの暗闇で狼の様に眼を光らせて
命を投げ出して待っていたんだぞ!
後やまも先やまも
汚れ切った体を真裸にして待っていたぞ!
合図のハッパの鳴るのをな!
だけどハッパは鳴らずにボーが鳴った!
おおよ、事務所の方でボーが鳴った!
ダラ幹め、俺達を
坊主に売った合図だったい!
おおよ、そして俺等は負けた
若え奴等はしょびいてかれた
負けたんだ、それっきりだ!
ホエ面をかくな、グチを言うな。

日が暮れるよ
俺達の地下足袋の先から
音の無い坑山が暮れる

どうしたんだよ、おっかあ
あのボーはどうしたんだよ?
此の子があの時そう言いましたよ
私しゃドッキリしちまって
返事をする事を忘れて
石の上に膝を突いちまった!
私の亭主が去年落盤でくたばった
あすこんとこで、
私も落盤でやられた様に
膝を突いてしまいましたよ!
ほんとに、ほんとに、その時
石の下から死んだ亭主が泣きましたよ
私しゃその声を聞きましたよ
四十日もの食うや食わずのストライキが
どうして負けたか教えて下さいよ
ねえ、私なんざヨロケかかった女です
死のうが生きようが何でもねえけど
此の子の腕を見て下さいよ
私の首に巻きつけてる
骨ばかりの此の腕を見て下さいよ
死んだ亭主が此の腕の中から
私の首をしめつけます
ちち畜生、なぜ負けた
なぜ俺の仇を打って呉れなかった
そう呻いてしめつけます
私しゃ苦しい、ええ
体中の血が一度に青くなればいいに!

青い咒いに踏みしめる
足の下に舞い上る砂ほこりも
俺達の眼に見えようか

ただ帰れ、兄弟!
たぎり立つ血を
もう一度氷の様に鉄の様に
核の核まで冷たくさせて
帰ろうや! おい!
俺達の背がこんなによ
曲って胸を押しつけても
泣き寝入りに寝入ってしまうのは早かんべ!
今日俺達は負けたか?
おお負けた!
明日には明日の日が照って
明日も俺達は負けるか?
おお負けるかも知れねえ。
明後日もその次の日も又の日も
おお負けるかも知れぬ。
歯を喰いしばれ、歯を 噛みくだけ!
くそ喰え!
しまいまで負けて居ようか!
しまいには負け…

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