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落ちぬ血痕
おちぬけっこん
作品ID54000
著者根岸 正吉
文字遣い新字新仮名
底本 「日本プロレタリア文学集・38 プロレタリア詩集(一)」 新日本出版社
1987(昭和62)年5月25日
初出「新社会」1916(大正5)年11月号
入力者坂本真一
校正者雪森
公開 / 更新2015-08-05 / 2015-05-25
長さの目安約 1 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


ヒ――ッ アレ――ッ
女の悲鳴驚愕の叫び
機械は停まった。集える人は垣をなす。
されど されど
死せる工女がなぜ生きよう。

髪をシャフトに巻かれて振り廻された。
若い工女の死骸こそ
目もあてられぬ惨憺さであった。
骨は砕け肉は崩れ皮は破れて血汐は飛ぶ。

飛んだ血汐があたりに散った。
彼女の機台に織られた毛布の上にも
異様の形をなした赤い血痕が残された。

ふと見ると。
隣の機台にも
前のにも、後のにも、ずっと離れた遠方のにも
どれにもどれにも同じ形の血痕が見える。

それのみか
違った工場の違った台にもそれがある。

不思議な事には其血が落ちない。
抜いても抜いても残る
如何なる薬品如何なる技術も其血は抜けない。

その工場は軍用毛布を一手に受けて
暴利を貪って居たのだが、
その血が残って一枚も納まらない。

その事あって丁度一年
同じ月の同じ日に会社の組織は変った。
けれども
白毛布には変らず赤い血がつく。
その血が落ちない。
(『新社会』一九一六年十一月号にN正吉名で発表 『どん底で歌う』を底本)



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