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夜明の集会
よあけのしゅうかい
作品ID54014
著者波立 一
文字遣い新字新仮名
底本 「日本プロレタリア文学集・38 プロレタリア詩集(一)」 新日本出版社
1987(昭和62)年5月25日
初出「プロレタリア芸術」1928(昭和3)年3月号
入力者坂本真一
校正者雪森
公開 / 更新2015-07-10 / 2015-05-25
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


幽かなエンジンの響
――炭山の深夜
午前三時
朝退けの号笛
未だ夜は明けぬ
寝たげな共同風呂場
とぎれ とぎれの騒めき
おい 見たか
――採炭部の掲示板
浴槽の中は黙り勝ちだ

午前四時半
東の空 白む
発電所の煙突
――クッキリとしてきた
淡く
電燈の息絶ゆく
重く湛えた貯水池
その辺の一軒長屋
続々と黒い影
阿母! みな集ったか
――要らねいんだ お茶は
――と 赤インキが用なんだ

俺達の胸は燃え
血は沸り
唇は固く
夜明の集会は
――凄い程静かだ
やがて
低く 拍手起る
中年の坑夫
――突立った
購買会のカードにまで
組合員の記号
食物までも
区別しくさることあ
辛い語り草だ
俺達の隠忍を
つけこむ会社の犬奴
今朝の掲示板もよ
健康保険法に
選むだ仲間を
「労働者側代表」を
――四日目で馘だ
木葉役人奴!
番狂せに
周章てやがって
暗い ドン底
坑内ン中から
搾るだけ搾りぬき
「設備」はそっちのけだ
健康保険法
――実は人殺し保険だ
血の絶えたことの無い
六坑道
落盤で殺られた
水島の女房に
主任の奴何とぬかした
ずるかってる罰だ
――乳なんぞ呑まして
小さい声だったが
聞き逃しは出来ねい
血とからみあった
脳味噌が
浅野総一郎の晩飯だ
いじらしい義坊の奴も
乳房を噛んだまま
――息をひきとったっけ
同志諸君
血で洗われた職場の
血の滲んだ祭壇の
兄弟達の命令だ
導火線と
マッチと
決行しろ! 時は来た
隣炭山の兄弟達へ
早く
宣伝員派遣
古河坑の支部へ
水島定子!
――妾それは
行くんだ 定さん
阿母と義坊の命令だ
頬こけた十九の坑婦
決意して立上った
梨畠を通り抜けな
火薬倉庫の裏道は
見張ってるぜ
発電所の班へ
誰か?
俺を遣って呉れ

導火線はブスブス燃えてゆく
非常汽笛を合図に
戦闘準備!
常磐炭田五万の兄弟よ
今こそ
一斉に起つときだ
必ず 手を
決して離すものか
俺達は斃れるまで
俺達は最後まで

俺達の世界が来るまでだ
(『プロレタリア芸術』一九二八年三月号に発表 同年五月マルクス書房刊『一九二八年プロレタリア詩集』を底本)



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